ほとんどの鳥は、それほど高くは飛ばない。中にはエミューやヒクイドリなど、まったく飛べない鳥もいる。これらの飛べない鳥にも翼はあるが、「痕跡器官」にすぎない。すなわち、空を飛んでいた祖先の翼の名残があるだけで、実際には機能しない。ニュージーランドにかつて生息したモアは、さらに進化して、完全に翼を失っていた。
一方で、空高く飛ぶことに長けた鳥たちも存在する。単に、どの高度を飛ぶか選べばいいだけに思えるかもしれないが、実際はそう単純な話ではない。鳥が高高度を飛ぶには、運動とエネルギーの産生効率が高くなければならない。
例えば、学術誌『Journal of Experimental Biology』に発表された研究によると、高高度を飛ぶ鳥は、効率的な呼吸パターン、大きな肺、酸素親和性(酸素と結合する能力)の高い血液など、独自の特性を進化させたと考えられる。同研究によると、これらの適応を遂げた鳥は、「高高度の低酸素環境において、酸素の取り込み、循環、効率的な利用を向上させる」ことができる。
また、高高度を飛ぶ鳥は、低高度を飛ぶ鳥に比べて翼が大きい傾向にある。これは、エネルギー消費を抑えながら高く飛ぶためと考えられる。
これまでの研究で、2万フィート(約6100m)を超える高度に達する鳥類種がいくつか特定されている。そのうち断トツで最も高い高度を飛ぶのはマダラハゲワシだ。
以下では、鳥の世界の「チャック・イェーガー」というべき、高度記録の保持者たちをご紹介していこう(イェーガーは、1947年に人類初の超音速飛行に成功し、高高度の飛行記録も打ち立てた米空軍パイロットだ)。
1. マダラハゲワシ(高度3万7000フィート[約1万1300m])

アフリカに生息するこのハゲワシの仲間は、最も高い高度で飛行したことが知られている鳥類の記録保持者だ。実際、マダラハゲワシは西アフリカ上空で、ほとんどの旅客機の巡航高度を超える約1万1300mという高度で民間航空機と衝突したことがある。
マダラハゲワシは、5500m以上の「極度高所」に独自に適応しており、ヘモグロビンが酸素と結合する効率は、他のほぼすべての鳥を上回る。このハゲワシは、強力な帆翔(ソアリング:羽ばたかずに翼を広げ、気流に乗って高度を上げる飛び方)のテクニックを駆使し、餌の腐肉を求めて広大な距離を移動する。上昇気流を利用することで、少ないエネルギー消費で上空に留まることができるのだ。
2. インドガン(高度2万7000フィート[約8200m])

インドガンは、標高8849mの世界最高峰エベレスト山を擁するヒマラヤ山脈を越える、過酷な渡りで知られる鳥だ。インドガンは、中央アジアとインド亜大陸間の季節移動中に、約8200mを超える高度で飛行したとされている。
薄い空気に対応するため、肺に多くの空気を取り込み、筋肉が酸素を効率的に利用できるようになっている。これらの生理学的特徴により、酸素の少ない環境でも、ただ帆翔するだけでなく、羽ばたきを繰り返すことができる。