サイエンス

2025.07.10 17:00

昆虫も家畜? 人類が飼いならした2種の小さな生き物たち

カイコ(Shutterstock.com)

カイコ(Shutterstock.com)

「家畜化された動物」とは、飼育されて人間と密接に関係して生きるように適応させられた動物を指す。通常は、愛玩、労働力、食料生産などを目的とする。

イヌ(イエイヌ、Canis familiaris)は、家畜化された動物の最も身近な例だ。少なくとも1万5千年前には、ハイイロオオカミ(Canis lupus)が狩猟採集民の集落の近くに住みつき、イヌになった。農耕が始まるはるかに前のことだった。

ほかにネコやウシ、ヒツジ、ニワトリなども家畜化された動物だ。しかし、家畜化はこうしたおなじみの動物だけにとどまらない。あまり知られていない例として、ハトがある。伝書バトとして通信手段に使われたり、食用にされたりと、ハトは何千年にもわたって飼育されてきた。ニシキゴイも家畜化の一例だ。祖先である野生のコイが、色や模様の美しさを求めて選択的に繁殖された。

昆虫の中にも、家畜化されたと見なせるものがある。ここでは、その中でも興味深い、小さな例を2つ紹介しよう。

カイコ(Bombyx mori)

カイコの繭(Shutterstock.com)
カイコの繭(Shutterstock.com)

カイコは、昆虫の中でも特に古くから家畜化されたものの一例だ。養蚕は、古代の経済の形成に重要な役割を果たし、特に中国では、絹の生産技術が何世紀にもわたって秘密にされた(外部への持ち出しを禁じるなど、強く統制された)。

中国の伝説によると、黄帝(古代中国の君主。伝説上の人物とされる)の妻、嫘祖(れいそ)皇后が、紀元前2700年ごろに絹を発見したとされている。その伝説には、不運なカイコと、嫘祖の熱いお茶が登場する。

嫘祖が桑の木の下でお茶をすすっていると、ふとした拍子に、カイコの繭が茶碗の中へ落ちてきたという。取り出そうとした嫘祖は、繭の繊細な繊維がお茶の熱で柔らかくなり、ほどけてきらめく細い房になっているのに気づいた。この発見が、絹の生産の始まりだった──と伝説では語られている。

中国における初期の養蚕農家が、望ましい特性(絹糸の生産量、大きい体、おとなしい性質など)を示す野生のカイコを選んで飼育するようになった。カイコにとって快適な環境を人間が整えてやるようになり、家畜化が徐々に進んだ。

選択的な交配により、カイコは飛ぶ力や捕食動物から逃れる能力を失っていき、やがて人間の世話がなければ生きていけなくなった。カイコの祖先にあたるクワコ(Bombyx mandarina)が、自然の中で交尾、産卵するのに対し、家畜化したカイコは飼育下でしか繁殖できない。

カイコは餌も管理されており、成長に欠かせない特定の桑の葉が与えられる。布の原料として価値の高い絹糸の増産を目指して家畜化が進んだ結果、カイコはライフサイクルが大幅に短縮され、古代中国の絹産業を支える重要な役割を担った。

技術が進歩した現在も、文化と経済の両面で絹が重視されている中国とインドを中心に、養蚕の伝統的な手法が根強く残っている。

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翻訳=緒方亮/ガリレオ

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