太陽系全体を卵の殻のように囲む「オールトの雲」。その内部に巨大な渦巻き構造があることが、ニューヨーク市のプラネタリウムで偶然発見された。
氷の小天体で形成されるオールトの雲は、太陽を中心とした全方向の約1.6光年の距離に存在し、太陽系全体を取り囲んでいる。個々の天体は小さくて光を発しないため、過去に直接的に観測されたことはないが、これまでに観測された彗星の軌道などから、この天体群の存在が予想されている。
アメリカ自然史博物館の一画にある「ヘイデン・プラネタリウム」では2024年9月、スペースショー「天の川との遭遇」の準備を進めていた。このプログラムでは天文学者チームが作成したシミュレーションデータを使用して、数百万個の星々がプラネタリウムに立体投影される。しかし、そのリハーサル中、オールトの雲の内部に、螺旋形をした未知の天体群が映し出された。

銀河のような螺旋構造
最初の発見者のひとりである視覚効果アーティスト、ジョン・パーカー氏は、「オールトの雲のなかに、渦巻き銀河のようなS字型の造形が浮かび上がりました。しかし、はじめ私はその天体が、データの提供元であるサウスウエスト研究所にとって既知のものだと思っていました」と振り返る。
しかし、それが未知の天体だと判明すると、プラネタリウムのスタッフはすぐさま研究所に連絡。デイヴィッド・ネスヴォルニー氏を中心とした研究チームは、NASAのスーパーコンピューター「プレアデス」でデータを再分析し、追加調査を行った。
その結果、渦巻き構造の長さは約1万5000au(2.4光年)と判明した。auとは、太陽と地球の距離を「1」とする天文単位。つまりこの壮大な天体群は、直径約3.2光年とされるオールトの雲の内側にすっぽりと収まる。
ネスヴォルニー氏は「この重要な発見に驚いています。数学的には予見されていましたが、このデータの全体像を、さらに一歩引いて見るべきでした」と述べた。また、同博物館の天体物理学者ジャッキー・ファハティ氏は、「初めて見たとき、まるで銀河のような構造に圧倒されました」と語った。この発見は、自然科学系の論文アーカイブ『arXiv』(2月16日)や、『天体物理学ジャーナル』(4月8日)に掲載されている。