世界で最も人命を奪っている動物は何か、ご存知だろうか? ヒントは、羽があり、空を飛ぶ。ただし鳥ではない。そう、答えは──蚊だ。
人類にとって、蚊は紛れもなく厄災であり、年間最大100万人の死をもたらしている。
蚊に刺されることそのものが危険なわけではない(ただし厳密にいえば、大量の蚊に一度に刺されることは、無視できない脅威だ。レアケースだが、ウシやウマなどの大型哺乳類が死亡した事例もある)。本当に危険なのは、蚊が媒介する感染症だ。マラリア、デング熱、黄熱病、ほかにもさまざまなものがある。
一方、感染症の媒介という意味では、鳥も、ヒトにとって危険な存在になり得る。鳥が媒介する感染症として最も一般的なのは、鳥インフルエンザ(H5N1)だ。とはいえ鳥インフルエンザの危険度は、マラリアと比べれば桁違いに低い。数字で比較すると、過去20年間に鳥インフルエンザが原因と確定した死亡例は500件に満たない。繰り返すが、蚊は1年に最大100万人を殺している。
鳥の直接攻撃によって人命が失われる事例は、さらにまれだ。とはいえ、実際に起こった記録はある。こうした攻撃事例はしばしば、以下の4種の鳥のいずれかによって引き起こされてきた。うち2種については、被害者が死亡した証拠が記録されている。
ヒクイドリ

「世界で最も危険な鳥」と呼ばれることが多いヒクイドリ(Casuarius属)は、オーストラリア北部とニューギニアの熱帯雨林に生息する。彼らは飛べない鳥だが、見た目の印象は強烈で、真っ青な皮膚、ヘルメットのような頭の突起、両足に短剣のような鋭い爪をもっている。
ふだんは警戒心が強く人目につかないが、脅威を感じると激しく攻撃することがあり、とりわけ繁殖期やヒナを守っているときには注意が必要だ。
ヒクイドリの最も恐るべき武器は、両足にあるカーブした鋭い爪であり、最長で約13cmにも達する。一度の蹴りで皮膚を切り裂き、血管を切断するだけの威力を備えている。
ヒクイドリの攻撃による死亡記録のなかで、最も古いものの一つは、1926年にオーストラリアで報告された。これによれば、被害者の16歳の少年は棍棒でヒクイドリを殴り殺そうとしていた。しかし、ヒクイドリの蹴りが彼の首に命中し、頸静脈が断裂。少年は負傷後まもなく死亡した。
より最近の事例では、米フロリダ州のエキゾチックアニマル繁殖施設で、同施設で飼育されていたヒクイドリの攻撃により、75歳の男性が死亡した。男性の体には、ヒクイドリの鋭い爪による裂傷が10カ所以上も残されていた。男性は、救命士が現場に到着してまもなく死亡した。
オーストラリアでは、ヒクイドリによる対人攻撃の記録がほかにもあるが、ほとんどは命に関わるものではない。