「世界で最も力が強い鳥」を考えるとき、耐荷重を基準にするなら、上位を独占するのは飛べない鳥たちだ。
例えばダチョウは、ヒトを背中に乗せて運ぶことができる。実際、アフリカの農場のなかには、ダチョウ乗りを体験できるところもある。ただし、一般論としておすすめはしない。
けれども、もっと興味深い疑問は(少なくとも、生物学者である筆者にとっては)、飛翔能力をもつ鳥のなかで最も力が強いのはどの種なのかだ。
空を飛ぶためには、何よりもまず軽量でなければならない。だからこそ、飛翔能力をもつ鳥たちは、体重を減らすための特別な方法を進化させてきた。例えば、鳥の骨は内部が空洞で、この気腔は呼吸器系とつながっている。軽量でありながら頑丈な構造だ。多くの鳥では、骨の融合や縮小が見られるが、これもまた重量を抑え、空気力学的効率を改善するのに役立っている。
さらに鳥は、重い歯を退化させ、代わりに軽量なくちばしを使っている。さらに卵巣がしばしば片方しか機能しておらず、これにより臓器の重さまで削減している。
羽は一見したところ繊細だが、ケラチンでできていて、不要な重量を増やすことなく、保温と揚力をもたらす構造を備えている。これらすべての適応形質が協調してはたらくことで、体重が抑えられ、飛翔能力が最大化されるのだ。
したがって問題は、いかにして筋肉の密度と効率を最大化しつつ、軽量で空気力学的効率に優れた構造を維持するかだ。この難題を解決した鳥が、メキシコ南部から中南米に分布するオウギワシだ。
以下では、オウギワシがなぜ「世界最強の飛べる鳥」という称号を獲得したのかについて、その生態を説明していこう。
「世界最強の飛べる鳥」オウギワシと、その好敵手になり得る2種
オウギワシ(学名:Harpia harpyja)は、鳥類界随一のパワフルさで知られる。翼開長は約2.1m、体重約6~9kgの屈強な体躯をもつ、大型のワシだ。

オウギワシの最も驚くべき特徴は、その握力かもしれない。鉤爪の大きさは、グリズリー(ヒグマの北米亜種)のそれに匹敵し、1平方cmあたり35kgもの力を加えられる。彼らは最大で14kg弱という、自重の2倍近くの獲物をつかんで飛ぶ能力をもち、空の世界にこれに並ぶものはほとんどいない。
中南米のうっそうとした熱帯雨林に生息するオウギワシは、サルやナマケモノなど、ほとんどの鳥が狙おうとしない中型哺乳類を捕食する。高い樹冠の枝にとまり、急降下して獲物を襲う。巨体でありながら、オウギワシは機動性に優れ、森の中を巧みに飛び回る。
(余談:オウギワシはサルを狩るだけでなく、ヒトを襲った記録もある。アマゾンでオウギワシが29歳の女性を攻撃した、初の学術的記録の詳細はこちらの記事で。)
長距離の滑空を利用する滑翔性の猛禽類とは異なり、オウギワシは、力そのものと奇襲戦術を武器とする。
「世界最強クラスの飛べる鳥」として名前をあげるにふさわしい種は、オウギワシのほかにもいる。