2026年4月から、一定規模以上の荷物を取り扱う荷主企業(貨物を発送する側)にCLO(チーフ・ロジスティクス・オフィサー)の設置が義務づけられる。CLOとは単なる物流責任者ではない。調達から製造、保管、配送に至るまでのサプライチェーン全体を俯瞰し、経営視点で物流を最適化する責任者だ。
背景には、物流の2024年問題がある。同年4月から、トラックドライバーの労働時間規制が始まり、それによって輸送力不足が発生している。企業にとって、モノが運べなくなることは売り上げダウンにつながり、従来より配送時間が長くなることで顧客からの信頼低下を招く可能性もある。物流が経営に与える影響が大きくなるなか、効率的で持続可能な物流体制を経営戦略の中で考える必要性が高まっているのだ。
物流を経営戦略としてとらえる考え方は、海外ではすでに浸透している。実際に、サプライチェーンマネジメントを担ってきた人材が企業のトップに上り詰める例は少なくない。Apple CEOのティム・クックはサプライチェーンを統括し、製品を必要な量で、期日どおりに製造・供給するという責任をもっていた。製品の在庫を2日分まで圧縮することで無駄なコストを削減し、Appleの利益体質を改善した。Walmartのダグ・マクミロンも、現場の物流業務からキャリアをスタート。サプライチェーン全体のマネジメント経験を積んだあとCEOに就任した。
日本にCLOが育たない2つの理由
海外では、CLOやCSCO(チーフ・サプライチェーン・オフィサー)といった役職が日本よりも早く広まったが、日本には、実質的にその役割を果たせる人材はほとんどいない。ある物流スタートアップ経営者は「CLO設置は約3200社に義務化されるが、担える人材は肌感では5人程度しかいない」と語る。
なぜ日本にCLO人材が育ってこなかったのか。
第一に、物流=コスト部門という固定観念がある。多くの企業で物流はコスト削減の対象だ。そのため物流の戦略を練ったり、利益をどう生み出すかという視点で議論されたりすることがない。
第二に、教育基盤が乏しいこと。海外にはロジスティクスやサプライチェーンマネジメントを専門に学べる学部・大学院がいくつも存在するが、日本では流通経済大学など一部に限られている。学位をもつ人材がそもそも少なく、職能としての地位も確立されてこなかったのだ。
そんななか、企業は今まさにCLOを選ばなくてはならず、選ばれたCLOはその責務を果たさなければならない。
“物流の現場出身者”は適任か
2024年に物流スタートアップのHacobuが行った「CLOにふさわしい人材」についての調査がある。本社と現場に分けて尋ねたこの調査では、「社内の物流部門からの登用」とする回答が1番多く挙げられた。
しかし、「CLO人材は、現状の物流部門にいない可能性が高い」と指摘するのは、トリドールホールディングス(丸亀製麺などを運営)執行役員兼CSCO SCM本部長(役職は取材時)を務めた梶野透氏だ。
「もし、物流だけを見てきた人の場合、『いかに安く、正確に届けるか』が成果のすべてになりがちです。一方で、CLOには、サプライチェーン全体を見通し『物流費が2倍に増えても、売り上げや製造効率が大きく向上するなら正解』といった判断が求められます。部分最適を超えて企業全体を見渡せるかどうか。財務構造を理解し、経営者の視点から最適な判断を下せるかどうか。そこにCLOの適性が問われます」
