「世界を変える30歳未満」を30人選出するForbes JAPAN 30 UNDER 30では、音声配信番組「3003 -サンゼロゼロサン- 」を配信中。
カルチャーオーディオメディア「Artistspoken」との共同コンテンツで、30 UNDER 30の受賞者たちがパーソナリティを務める。
本稿では、MCに大森時生(テレビ東京)、サリー楓を迎えて5月11日に配信された#40の一部をお届けする。ゲストにラッパーで着ぐるみ作家のなみちえを迎え、3人でのトークが繰り広げられた。
大森:後半は応用編ということで、テレビ、建築、音楽と活動のフィールドが違う我々3人が、ディスカッションしていきます。まず、なみちえさん、くじでトークテーマを引いてください。
なみちえ:テーマは「別のジャンルの表現から受けた影響」です。「別のジャンル」って何だろう? 私はあまり他人のことは言わないので、前半で出てきた、岡本太郎、ダニー・ジン、ブライアンくらいかな。
サリー:ブライアンだけ違うグループのように感じます。
なみちえ:ブライアンさんはラップがすごく上手いんです。韻が硬く、意味が強いし、単語と単語の意味の差が広くてイメージを膨らませやすい。
私の「おまえをにがす」という曲とか、めちゃくちゃ影響を受けていて。例えば、「金星の時差 死んでもいいや」という歌詞があるんです。そこだけ聞いても意味がわからないけど、果てしない宇宙で何かあったんじゃないかということを彷彿とさせたいと思って書きました。そういう幅の広さはブライアンさんから影響を受けています。
なみちえ「おまえをにがす」
サリー:YouTube以外のメディアに触れることはありますか?
なみちえ:本を読みますし、映画も見ます。映画だとアンドレ・ホドロフスキーの映画が好きですね。かなり抽象的で実験的なことをやっているので。とてつもないことをやっているエネルギーが好きなんです。
大森:サリーさん、建築ではどうでしょう。完全に関係ないジャンルにインスタレーションを受けて建築に活かされているみたいな経験はありますか。

サリー:人が中に入り、その空間を体験して物事を考えるという意味で言えば、建築はある意味メディアなんです。ただ、建築は完成までに時間がかかるので、今の文化の影響を受けて作っても、完成した時にはその文化は終わっていて、次の次くらいの文化に移っている。そういう、常に後追いのメディアなんです。建築が音楽や写真や映画に取り込まれることもあります。
例えば、この建物が写真に撮られたらどうなるのかを考えながら建築していくピクチャレスクという建築様式などがそうです。デジタル社会の今は、建築の目に見える情報とデジタル上で見られる情報をどう重ねるかがテーマになっています。
大森:面白いですね。では、次のトークテーマを引いてください。
なみちえ:「最近気にしているビジネス・注目しているビジネス」です。
私自身の新しい形態のビジネスの話なんですが、着ぐるみをレンタルしたり、自分が着ぐるみの中に入ってミュージックビデオをつくったりしています。
そもそも自分に合わせて作った着ぐるみなので、私が入って演じた方がポップで面白い映像になるんです。そういう「出張着ぐるみ演者」みたいなことをやっていて、これがけっこうビジネスになっています。
大森:なみちえさんが着ぐるみに入ることで、その着ぐるみが完成するという感覚になるんですか。
なみちえ:なりますね。着ぐるみは立体作品ですが、衣装とも言えます。そういうマルチ構造の着ぐるみに人間のエネルギーが加わると、すごくフィットした感じになって、自分が着ぐるみの素体であるような感覚になることがあります。
大森:僕が最近気になっているのはエルサゲートです。エルサゲートというのは、子ども向け動画の中に突然残酷なシーンや性的なシーンを入れることで、見ている子どもたちにトラウマを植えつけようとする動画群のことです。
これがすごく気持ち悪いのは、こうした動画をビジネス目的でつくっているのではないという点です。ただただ知らない子どもに怖い思いをさせたいという異常な欲みたいなものが本当に不気味で気になっています。
サリー:私が気になっているのは「これが最新のビジネスだ!」というものと逆行しているのに売れているものですね。
例えば、今はエシカルやエコなものが良いとされていますが、12気筒で燃費が悪いフェラーリがものすごく売れていている、とか。
動物保護の面からオフィシャルでは廃止しているレザーベルトがやっぱり売れていて収益を上げている、とか。世の中でよしとされている感覚と、実際に伸びているビジネスとの乖離がすごく大きいのが気になります。どうしてなんだろうって。

大森:本物の皮が一番いいと思っていても、それを言わずに買い続けているから伸びているんでしょうね。奇妙な話ですね。
では、ラストのお題を。
なみちえ:「日本発世界的コンテンツ」です。えー?!
大森:ラッパーで世界に打って出ている人っていますか?
なみちえ:以前KOHHという名前で活動していた千葉雄喜さんですね。以前はもっとミーニングフルな感じだったけど、今は「チーム友達」とか「お金、稼ぐ、俺らはスター」みたいな、わかりやすくてポップで、日本語がわからない人にも伝わりやすい楽曲をつくっていて、すごく評価されています。
サリー:わかりやすくしないと世界で受容されないんでしょうか。
なみちえ:どうなんでしょうね。坂本龍一さんもポップですよね。世界的に受け入れられている日本のアニメも起承転結がはっきりしていてポップでわかりやすい。わかりやすさは大事かもしれない。
大森:なみちえさんは世界を目指していますか?
なみちえ:ダブルミーニングはいつも日本語と英語でやっていますけど…。「おまえをにがす」はミシシッピアカミミガメを小出川に逃がそうとする内容ですが、「oh my niggas」という差別用語のダブルミーニングがあります。
最近作った「木偶の坊」は、元カレとか男性経験であった嫌なことが題材です。木偶の坊は、役に立たない人という意味と、「Dick no bow」(ちんちんはお辞儀をしない)というダブルミーニングがあるんです。
なみちえ「木偶の坊」
こういうラップを出すと、よく「ミシシッピアカミミガメを川に逃がしてはいけません」とか「差別用語を使ってはいけません」というコメントがきます。そこを掘り下げていって、私が伝えたい本質が伝わってほしい。でも伝わるかどうかは曲を聴いた人の人間性とか人格によるんです。だからすごく難しい。
その点着ぐるみはいいですよ。ポップだし言語を使わなくてもかわいさは伝わります。外国で音楽の仕事をたくさんしていますけど、着ぐるみの方が世界に行きやすいかもしれません。ただ、自分はひとりしかいないのにやりたいことがたくさんありすぎて、思うようにまだ世界に行けていない気がしています。
大森:じゃあ我々みんな、世界を目指してがんばりましょう!