アジア

2025.06.04 09:45

緊張する韓国の既得権層 少年工から大統領になった李在明氏

2025年6月4日、韓国・ソウルの国会外で行われた大統領選挙勝利発表祝賀パーティーで、支持者に向かって身振り手振りで演説する民主党の李在明大統領候補。李氏は6月4日に新大統領に就任する。(Photo by Daniel Ceng/Anadolu via Getty Images)

2025年6月4日、韓国・ソウルの国会外で行われた大統領選挙勝利発表祝賀パーティーで、支持者に向かって身振り手振りで演説する民主党の李在明大統領候補。李氏は6月4日に新大統領に就任する。(Photo by Daniel Ceng/Anadolu via Getty Images)

韓国大統領選が3日開票され、進歩(革新)系最大野党「共に民主党」の李在明氏が当選した。韓国は昨年12月3日に起きた尹錫悦前大統領による非常戒厳以降、6カ月続いた指導者不在の状況をようやく脱した。国際社会からは、トランプ米政権による高関税政策や日韓関係などに対応する李氏の手腕に注目が集まる。ただ、韓国内の李氏に対する視線は少し違う。それは「既得権の破壊」をどこまで進めるのかという緊張した視線だ。

韓国で国会議員を何期も務めた元老は「李在明は従来と全く違う権力者だ」と語る。「韓国の既得権層と全く関係のない人物が大統領になった初めてのケース」という。李氏は極貧の家庭に生まれ、正確な生年月日すらはっきりしない。小学校を卒業した後、京畿道城南市で少年工になった。大学入学の資格試験を受けた後、その優秀な頭脳に目をつけたソウルの私立・中央大学に特待生で入学し、司法試験にも合格した。

同じ、中央大学の特待生だった元政府当局者は「韓国の既得権層はSKY(ソウル大、高麗大、延世大)出身者でなければ見向きもしない。だから、他の大学はカネのない若者に目をつけてスカウトし、その代わりに司法試験や外交官試験に合格してもらい、ブランド力を高めようとしていた」と語る。当時、中央大学は年間20人ほどの特待生を募り、寄宿舎に住まわせたうえ食事の面倒もすべてみた。2カ月に一度はわずかだが小遣いも出たという。

やがて弁護士活動を始めた李在明氏は、城南市を含む地域で活動していた左派系団体「京畿東部連合」と親しい関係になり、城南市長選や京畿道知事選などで支援を受けた。進歩系の政府元当局者は「この過程で、李在明氏は進歩系の政治家になった。貧困だった過去から、社会の富の再分配などには関心があるようだが、民主化闘争を経験した伝統的な左派ではない」と語る。

このため、李在明氏は進歩勢力のなかで、徹底した非主流の道を歩んだ。韓国では「学閥」や「地域閥」などを利用し、社会的な地位を引き上げてもらうのが一般的だが、李氏にはそのような人脈はなく、常に闘争によって地位を獲得してきた。それが城南市長時代、公私にわたる過激な発言につながり、「韓国のトランプ」という異名がついた。前述の元当局者は「とにかく目立つのが目的だった。発言だけみれば、トランプと似ている。でも、金持ちの家に生まれてアイビー・リーグのペンシルベニア大を卒業したトランプと、カネも学歴もなかった李在明では全く背景が違う」と語る。李在明氏を巡る様々な疑惑も、政治資金を作る過程で起きたと指摘する韓国識者もいる。

次ページ > 「怪物独裁国家」という強い言葉で非難

文=牧野愛博

ForbesBrandVoice

人気記事

iiq_pixel