カルチャー

2025.06.04 14:15

海の王者「シャチ」の命を守る ソニーが開発した高精細映像伝送の新展開

鴨川シーワールドの勝俣 浩(左)と神戸須磨シーワールドの金野征記(右)

鴨川シーワールドの勝俣 浩(左)と神戸須磨シーワールドの金野征記(右)

海の食物連鎖の頂点に立つことから「海の王者」とも呼ばれているシャチ。国内でシャチが見られるのは、千葉県にある鴨川シーワールドの3頭、愛知県の名古屋港水族館の2頭、そして兵庫県にある神戸須磨シーワールドの2頭の計7頭に限られる。世界でみても、約10の施設で60頭ほどが飼育されているに過ぎない。

当然、シャチの飼育ノウハウを持つ専門家の数も少なくなる。そのような事情もあり、昨年6月に開業した神戸須磨シーワールド(神戸市須磨区)も、外部から飼育技術の支援を受けるのが不可欠だった。

現在、神戸須磨シーワールドではシャチの健康を管理するために、映像と音声を遠隔でやり取りする最先端のシステムが導入されているが、これも外部から飼育技術の支援を受けるためのものだ。

神戸須磨シーワールドからシャチの様子を送信している金野征記(こんの・せいき)と鴨川シーワールドでその映像と音声を点検している館長の勝俣浩(かつまた・ひろし)から話を聞いたので、このシステムの可能性について伝えたい。

館長の神戸出張を軽減するシステム

毎日、朝9時になると神戸須磨シーワールドでは、スマホホルダーを構えた金野がシャチの大水槽に近づいて、シャチの頭部にスマホのカメラを向ける。鴨川シーワールドの勝俣から「まず右目を」との声がイヤホン越しに聞こえると、金野はスマホのレンズを望遠に切り替えて、シャチの瞳を拡大する。

シャチの様子を送信している金野征記
シャチの様子を送信している金野征記

同時刻、鴨川シーワールドの一室にいる勝俣は、大型ディスプレイの画面を見ながら、いつもと較べ神戸須磨シーワールドのシャチの様子に変化がないかを念入りに調べる。金野の胸に装着された無線マイクでシャチの呼吸音までも、勝俣には届いているのだ。

シャチは知能が高く、社会性もある生き物なので、住む環境の変化には敏感だ。神戸須磨シーワールドで飼育されている個体は2頭ともメスで、ステラ(推定39歳)は名古屋港水族館から、ラン(19歳)は鴨川シーワールドから「引っ越し」してきた。人間と同じく、シャチも生活環境が変わると、精神的にも肉体的にも不安定になりやすいという。

手前がステラで奥が娘のラン
手前が娘のランで奥がステラ

神戸須磨シーワールドの開業前、2頭のシャチが名古屋と鴨川から運ばれると、鴨川シーワールド館長の勝俣はしばしば神戸まで出張するようになった。

鴨川シーワールドでのシャチの飼育歴は50年を超える。館長である勝俣は、1987年に同施設に就職すると、40年近くシャチなど鯨類を担当。その経験と実績は世界的に見ても比類する人間は少ない。

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文・写真=多名部 重則

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