経営・戦略

2025.07.11 08:30

アクティビスト買収と異能集積拠点の設立。任天堂創業家「大いなる遺産」の使い方

山内万丈|任天堂・創業家 Yamauchi-No.10 Family Office 代表

山内万丈|任天堂・創業家 Yamauchi-No.10 Family Office 代表

ファミリーオフィスを率い、積極投資を行う任天堂創業家の山内万丈が構想する未来は、かつて世界を席巻した3代目社長の祖父、山内溥と同じDNAによってつくられようとしている。


かの武蔵坊弁慶が一生をともにする源義経と出会った京都・五条大橋の南に、菊浜と呼ばれるエリアがある。高瀬川が舟運で栄えたころには問屋が並び、遊郭や茶屋など花街としても賑わった。ところが現在は、大正、昭和のレトロな街並みは残るが、意外にも観光客はあまり多くない静かなエリアである。ただ、これからは違う。この菊浜が日本はおろか、世界中から注目される場所になるのだ。

今、このエリアには世界中から飛びぬけてユニークな人たち、言い変えれば異能や異才をもった人々が集まり、知の生態系を生み出そうとしている。その取り組みの名は「SOHA(創破)プロジェクト」。クリエイティブの「創」とブレイクスルーの「破」から名付けられた。「AIなどの先端技術によって人間の仕事が代替されていくなかで、その原点である発想は、人間がやるべきことだと考えています。この考えをもとに“異能集積拠点”を菊浜に築こうとしているのです」。そう語るのは、プロジェクトを進めるYamauchi No.10 Family Office(YFO)代表の山内万丈だ。彼は、この菊浜から世界へ飛躍した企業である任天堂の中興の祖、山内溥の孫であり、YFOは同社が築いた資産を運用するファミリーオフィスだ。この異能集積拠点には、海外からは、レバノンのファッションデザイナーやブータンのウェルビーイング系のソーシャルアントレプレナー、メキシコのヌードフォトグラファーなどが、日本からも僧侶や仏師、海洋考古学者など、常識の枠の外で活動する人たちが集結しているという。

任天堂に変わるアイデンティティを求めて

山内万丈といえば、投資に興味があれば名前くらいは聞いたことがあるかもしれない。2020年にファミリーオフィスを立ち上げ、21年にタイヨウ・パシフィック・パートナーズという米国のアクティビストファンドを取得。それを機に、上場企業へのTOBやディープテック企業への投資など、積極的な投資を行うことで知られるようになった。直近でも、大型プリンターなどを製造するローランド ディー.ジーのMBOをホワイトナイトとして成功させ、精密機械や工作機械を製造するスター精密とは、資本業務提携の中で株式を36%取得するなど、その動きは目を引く。アクティブさだけでなく、日本ではなじみの薄いファミリーオフィスを拠点としているところも注目されるゆえんだ。

一般的には資産管理会社と共通するところが多いと考えられているファミリーオフィスだが、どう違うのか。山内いわく、「ファミリーオフィスは資産の管理や運用を銀行や証券会社などに任せず、自ら人を雇い、ファミリーの意向を反映した投資や慈善事業を行う存在で、海外ではポピュラー」なのだそうだ。

異能集積拠点にアクティブな投資、さらに、それを行うYFO。そもそも彼はなぜ多方面での活動に取り組み、その意図はどこにあるのか。目指している未来を聞いていくと、山内が育った山内家ならではの理由が浮かび上がる。

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文=古賀寛明 写真=ヤン・ブース スタイリング=井藤成一 ヘアメイク=梅崎晶子(noel)

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