京都のミシュラン一つ星、「koke」と「shiro」の入る文化複合施設「IDO KYOTO」。そこでは年に3回ほど、五感でアートを楽しむ「究極の遊び」という名の催しが開かれている。
手がけるのは、同施設のオーナーで不動産事業を営むリーベンバーグの社長、板倉孝次。毎回、ゲストクリエイターに作品を依頼。腕利きの料理人と和菓子作家がそのアートにインスパイアされたメニューを考え、器や空間も含めて楽しむというもので、イベントは少人数の招待制だが、そのスペースを数日間、一般向けに公開している。
板倉の文化芸術への関心は、35年ほど前に留学していたニューヨークでの経験が原点にある。
「日本で現代アート展を見たことはなかったのですが、NYでは美術館やギャラリーで頻繁に展覧会が開催され、レセプションで知的な交流が繰り広げられる様子に魅了されました」
日本に戻ると環境が変わり一時は熱が冷めたが、2017年に事業をおこしてから、当時憧れたシーンを自らつくり出している。
これまで、杉本博司、名和晃平、須田悦弘ら名だたる面々を迎えているが、特に印象に残っているのはペインターの丸山直文を招いた会。「月見の時期だったので水面に映る月をテーマに作品を依頼したのですが、イベント当日、絵に描かれたのと同じ弓張り月が空にあがって。ふたつの月を愛でる特別な会になりました」。
「究極の遊び」は、各回カメラマンが撮影し、アーカイブ書籍にまとめる。それらも含め、かかる費用は板倉個人が負担している。
「一種の投資ですね。一見無駄なようで、人のつながりというお金では買えない価値を得られています。お金をたくさんもっていても幸せとは限りません。お金の使い方にその人の考えが表れ、その使い方に人が集まり、その継続によって広がっていくのだと思います」
環境が人をつくるという。こうした場によって、文化的資本を備えた成功者がひとり、またひとりと増えていくのだろう。