人を操る行為がなぜこれほど陰湿なのか。理由は、そうした企みがあまりに微妙なため、特定されにくいことにある。あなたにも、気づかないうちに操られていると感じたことがあるかもしれない。それは示唆や沈黙、あるいは気づきにくい微妙な感情的な含みといった形で現れる。
「ドライ・ベギング」は恋愛関係においてよく見られる操作の手法だ。基本的に自分のニーズや願望をはっきり言わず、間接的に伝える方法を指す。ドライ・ベギングをされると相手の心はざわつき、介入せざるを得ない、あるいは助けなければと思ってしまう。
恋愛関係では誰でも気づかないうちにこのパターンに陥る可能性があるが、ナルシストは戦略的にこの手法を使うことが多い。直接要求するのではなく、会話の感情的なトーンを形成し、相手の注意が自分に向けられるよう操作するために用いる。
ナルシスト傾向がある人にとって、この手法は誇張された自己像を保ちつつ、自分の感情的あるいは実際的なニーズを満たすために相手を引き込むことに役立つ。
ナルシストがどのようにドライ・ベギングの手法を使うのかを理解することは、この手法が生み出す感情面での罠に気づく鍵となる。
ナルシストが恋愛関係でドライ・ベギングを用いる最もポピュラーな方法を3つ、研究に基づいて紹介しよう。
1. 殉教者コンプレックスで自分の苦しみをアピール
ナルシストは恋愛関係において自分が犠牲になっているように演じることが多いが、それは直接助けを求めるためではなく、自分の苦悩を見せつけるためだ。
そうすることで、あなたが罪悪感や同情を感じるように仕向ける。そしてあなたが介入して自分のニーズに応えるよう、微妙にプレッシャーをかける。
例えば、家事を平等に分担しているのに「大丈夫、いつものように自分で全部何とかするから」といった発言がこれにあたる。部屋中に響き渡るほどの大きなため息をつきながらこのような言葉を口にすると、相手は感情面で衝撃を受ける。
表面的には、相手が不満を訴えているように見えるかもしれない。実際には、介入しなければ思いやりのない人間だとあなたが思うように仕向け、自分を傷ついた利他的な殉教者に仕立てるための方法にすぎない。
専門誌『Frontiers in Psychology(フロンティアーズ・イン・サイコロジー)』に2024年に掲載された研究では、ナルシシズムと「関係性攻撃」の関係について調べた。関係性攻撃とは、罪悪感や排除、感情的圧力を使って他人をコントロールする間接的な操作の一種だ。
研究によると、ナルシストは「相対的剥奪を感じているとき」、つまり自分が感情面で無視されたり過小評価されていると感じているときに、関係性攻撃をする傾向にあるという。ナルシストは他の人よりもはるかに高いレベルの評価や関心を求める傾向があるため、ナルシストが押し付けるこのような要求基準をパートナーが満たすことは不可能に近い。
ナルシストは報復として、自分のニーズを率直に伝える代わりに、受け身の苦痛あるいは感情的な引きこもりといった戦術を用いて周囲の雰囲気を形成し、支配を取り戻したり、自分を認めさせたりする。
この行動は、相手に対する感情面での影響力を維持するために用いられる。このように、ナルシストは自分の「重荷」は自分だけが背負うものではなく、相手も背負うことを望んでいる。相手がこれまでその役割を果たしたかどうかは、関係がない。