サイエンス

2025.05.18 12:00

80年代の人気者ウーパールーパー、実は脳も四肢も再生し大人にならない脅威の生態

Iva Dimova / Shutterstock.com

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かつてのメキシコシティには、湖がいくつか存在していた。そうした古代の湖には、謎めいた生き物が、冷たく澄んだ水のなかをたゆたい、羽毛のようなエラをなびかせながら、永遠の若さを謳歌していた。

死を拒んだアステカの神の名にちなんでアホロートル(axolotl)と呼ばれるこの生き物は、科学者たちがその驚異の再生能力に気づくはるか昔から、回復力のシンボルだった。(日本ではウーパールーパーという別名で1980年代、テレビCMに登場し、お茶の間の人気者となった)

しかしいまや、湖の大部分は姿を消した。チャルコ湖は埃っぽい埋立地となり、ソチミルコ湖はかろうじて存続しているものの、汚染され、コンクリートとプラスチックで塗り固められた運河群となっている。アホロートルもまた生き延びたが、野生での状況は危機的で、実験室や家庭の水槽で飼育されているにすぎない(実験室では、その驚異的な再生能力が研究対象になっている)。

このサンショウウオの1種の驚くべき特徴は、四肢や肺に加え、脳の一部すら再生する能力だけではない。アホロートルはそもそも「大人にならない」のだ。

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「完全な成長をとげない」ことが生存の秘訣

ほとんどの両生類にとって、変態は通過儀礼だ。オタマジャクシは四肢を獲得し、エラ呼吸をやめて肺呼吸になり、水中のゆりかごを抜け出して、陸上の自由へと踏み出す。しかしアホロートルが、そのように生物学的に「一人前」になることは決してない。

アホロートルはむしろ、永遠の思春期にとどまる。生涯にわたって水中生活を送り、フリルのようなエラをまとったその姿は、まるで変態の途中で一時停止したようだ。このように、動物が幼体の形質を備えたまま性成熟を迎える現象は、ネオテニー(幼形成熟)と呼ばれる。発達異常のように思えるかもしれないが、アホロートルの場合、これは進化が磨き上げた生存戦略だ。

そして、ネオテニーは意外な恩恵をもたらした──身体を再生する能力だ。

ネオテニーがもたらすのは、風変わりな外見だけではない。生体組織の成長を司る遺伝子は、通常は成体になった時点で役割を終えるが、アホロートルではこうした遺伝子の働きがずっと保たれていると研究者たちは考えている。実際、2022年3月に学術誌『Developmental Dynamics』に掲載された論文によると、実験的にアホロートルの変態を誘発させた場合、彼らの再生能力が損なわれた。

アホロートルにとって若さを保つことは、大人になれないことではなく、自らの回復力に賭けることだ。陸生の近縁種は水から出ることで乾燥のリスクを負うが、アホロートルは水中の隠れ家にとどまり、幼体の特徴と、脊椎動物としては類まれな再生能力を維持している。

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翻訳=的場知之/ガリレオ

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