2025 年4月24日発売の「Forbes JAPAN」6月号では、「多彩な新・起業家たち100人」にフォーカスした企画「NEXT 100」を特集。地球規模から社会、地域まで多様化する課題に対して、アントレプレナーシップをもち、「自分たちのあり方」と「新手法」で挑む起業家やリーダーたちを「NEXT 100」と定義し、100人選出した。カバーにはBMSG 代表取締役CEOのSKY-HIが登場。
BMSGを設立したSKY-HIが挑む変革は、近年の音楽業界にどんな影響を与えたのか。取材を通してBMSGの道のりを見てきた、音楽ライターの矢島由佳子が解説する。
2020年代の音楽業界における変革について語るうえで、20年9月にSKY-HIが設立したBMSGの存在は欠かせない。SKY-HIは自身が10代のころからアーティスト/アイドルとして活動するなかで、音楽業界やアイドルシーンにて長年変わらないシステムや「当たり前」とされているものに多くの違和感を抱いていた。BMSGの設立以降、それらの違和感に立ち向かい、才能あるアーティストたちを成功へと導くための健全なあり方を独自の方法で築き上げている。
SKY-HIが起こした大きな変革のひとつとして、真っ先に思い浮かぶのは、ダンス&ボーカルグループの事務所の垣根を壊したこと。それまで事務所が異なるグループ同士は競争相手であり、コラボレーションなどを行うことはタブーといった空気が業界内にあった。
しかし、世界的に見ても日本のダンス&ボーカルグループシーンがK-POPに追い越されている今、大事なのは手を取り合ってシーン全体を育んで世界に出ていくことである。もっと言えば、そもそも「音楽を楽しむ」「良質なエンターテインメントを届ける」という本質を追求するうえで、所属の区切りなどは必要ないはずだ。そういった考えのもと、23年、SKY-HIは「ダンス&ボーカルグループおよびアーティストが垣根を越えて、日本から世界に発信していくプロジェクト」として「D.U.N.K. -DANCE UNIVERSE NEVER KILLED-」を始動させた。
同年12月のライブにはBMSG所属グループ、LDH所属グループ、TOBE所属のIMP.、STARTO ENTERTAINMENT所属のTravis Japanなど、複数のダンス&ボーカルグループ事務所の共演が実現。24年にはSKY-HIが高橋海人(King & Prince)に楽曲を書き下ろし、『D.U.N.K』だけでなく地上波番組『CDTV』でも共演するという革命を起こした。
そうして「競争」より「協創」というSKY-HIの思想に多くのアーティストを巻き込み、それまで「常識」「正解」とされていた考え方を動かしてきた。最近ではTikTokにも日々、事務所が異なるグループがコラボしたダンス動画が上がっているが、SKY-HIの行動がなければ、もしかしたらそんな動画を見られることもなかったのかもしれない。
またSKY-HIは、「音楽業界を持続不可能にしないため」という提言のもと、CD売り上げに依存したビジネスモデルにも一石を投じた。ひとりのファンが何枚もCDを購入し、ときには再生されないままゴミ箱行きになってしまうCDビジネスの不健全さと、アーティスト本人に分配される利益率の低さを問題視。24年4月にリリースしたBE:FIRSTのコンセプトシングル「Masterplan」は、ファンに複数枚買ってもらうための要因となる「販売店・サイトごとに異なる購入者特典」を廃止し、それに値するものをグッズとして販売した。