「業界特化型M&A」と「バリューアップコンサルティング」により、M&A業界で注目を集めるスピカコンサルティング。同社が注力する業界のひとつが物流だ。その責任者であり物流業界M&Aの第一人者である山本夢人には、物流業界を変えたいという熱い想いがある。
中小企業の事業承継問題を解決する手段として近年、注目されているM&A。その仲介会社が急増しているが、トラブルも少なくない。そうした状況のなか、業界で今注目を集めているのがスピカコンサルティングだ。
同社の強みは「バリューアップコンサルティング」と「業界特化型M&A」。前者は、経営に直接入り込んで本質的な課題を解決し、企業価値を高めることが目的だ。また後者は、ひとりの担当者が特定の1業種を担当することで、その業界ならではの課題やニーズに即したより専門性の高いマッチングサービスを提供する。その特化型として注力している業界のひとつが物流だ。
廃業を経験してM&Aコンサルタントの道へ
陣頭指揮に当たる、同社取締役で物流業界支援部部長の山本夢人は、自身の苦い経験からM&A業界に飛び込んだ。証券会社に勤務していた山本は、引き抜かれるかたちである小規模の土木資材メーカーの副社長に就任した。次期社長を約束されていたが、社長は自身の体に不調が見つかったのをきっかけに、突如会社を閉じる決断をする。山本は説得を試みたが、結局この会社は廃業してしまった。
「あのときにM&Aをしていれば、事業を継続できたはずです。でも当事者だった私も社長も、その選択肢がまったく思い浮かびませんでした。証券会社時代にM&Aの案件を担当したことがある私ですらそうなのですから、世の中の中小企業の多くの経営者が、M&Aを選択肢のひとつとして考えずに廃業しているのではないか。私の事業承継に失敗した経験を生かしたいと思い、M&A仲介の道に進んだのです」
山本が物流業界の担当を引き受けたのは、前職で最初に担当した調剤薬局業界と構造が似ていたからだという。
「薬局は薬剤師がいないと成り立たず、物流業界はドライバーがいないと成り立たない事業で、いずれも人の取り合いが起きています。薬局の数はコンビニより多い約6万店舗ですが、その約7割が1店舗だけ経営する中小企業。一方の物流も、約8割がトラックの保有台数20台以下の中小企業です。しかもどちらも国によるルール変更が頻繁にあり、対応できなければ収益が悪化するという課題を抱えています」
さらに尊敬できる経営者との出会いが、山本を物流業界に引き込む契機となった。
「広島の運送会社のM&Aをお手伝いしたときのことです。当初は、債務超過という状況もあってか、暗い雰囲気でしたが、福岡の企業に譲渡されてからガラリと変わりました。譲受企業の社長は物流業界を愛してやまない方で、物流業界の発展に使命感をもって仕事をしていました。その会社が経営に参画し、スケールメリットを生かして運賃や燃料代などのコストを下げたことで、半年ほどして黒字へと転換。社員にははじめての賞与が支給され、それからオフィス内が見違えるように明るくなったんです」

企業価値を向上させ物流業界を誇れる業界に
物流業界が抱える課題は根深い。発端は、1990年の規制緩和によって新規参入が激増したことにあると山本は指摘する。
「当時およそ4万社だった運送事業者は、6万社にまで増え、仕事の取り合いになって価格競争が起きました。結果として、多重下請け構造が定着し、業界全体が利益を出しにくい体質になってしまったのです。その穴をドライバーの長時間労働によって埋めてきたという実態があります。しかし、2024年に始まった労働時間の上限規制により、そうした働き方はできなくなりました。規制を守れない企業が依然として存在しており、より多く稼ぎたいドライバーがそうした企業へ転職してしまい、ルールを守っている事業者ほど、人の確保が厳しくなっています」
こうした構造的な課題を解決する選択肢のひとつが、M&Aだ。スピカコンサルティングでは、物流業界に精通した専門チームを編成し、業界支援に取り組んでいる。
「メンバーは全員資本政策や経営支援を通して、企業の成長そして日本経済の発展をこころざし、M&Aの世界に飛び込んでいます。そうしたなかで、私と同じように素晴らしい経営者と出会い、物流業界を変えたいという強い想いをもっています」
想いだけではない。チームの全員が物流企業に必要な国家資格「運行管理者」を取得しており、法令への理解が深く、的確なアドバイスができる。また、2024年問題や業界内でのM&Aニーズの高まりもあり、物流M&Aの専門家としてメディアからたびたび取材を受けている。
M&Aを成功させるためには企業価値の正しい評価が重要だが、山本によると、物流企業はそのためのチェックポイントがほかの業種よりも多いという。
「中堅・中小の物流企業には、労務管理の整備まで手が回っていないケースが少なくありません。例えば、残業代の基準が明確に定められていなかったり、トラックの駐車場所や運行管理など、業界特有の規則が十分に守られていなかったりすることもあります。さらに、帳簿の管理が不十分で、正確な損益を把握できていない企業も少なくありません。私たちが丁寧に確認・分析を行うことで、実態とかけ離れていた経営数値が大きく修正されるケースも多いのです」
スピカコンサルティングは正しい企業価値評価と、経験と専門性の高さによる数字には表れない価値を含めたマッチングで、企業の悩みを解決してきた。
「後継者不在で1年も譲渡先が見つからなかった老舗運送会社を、業界知識を生かして3カ月でマッチングしたケースもあります。規模100倍の企業への譲渡によって、交渉力が強化され運賃を20%引き上げることができました。業界理解の有無が結果を大きく左右した事例です」
確実に成約へと導くスピカコンサルティングだが、同社は物流業界の発展を目指しているため、必ずしもその手段はM&Aありきではない。企業価値を最大化する「バリューアップコンサルティング」による経営支援も行っている。
「燃料など原価計算をし、利益を出せる構造にするお手伝いや、採用の支援を行っています。また、売り上げを上げるために同業者の紹介もしています。例えば“名古屋→東京”には荷物があるが“東京→名古屋”は空荷という会社に、東京→名古屋の仕事をどこかに頼みたいと思っている企業をつなげ、無駄を減らし売り上げアップに貢献しています」
こうして企業価値を向上させることで、仮にM&Aを選択したとしても、高い金額で譲渡できるようになる。物流企業の価値を少しでも高めたい―。その先に山本が願うのは、物流業界のさらなる発展だ。
「物流を誇れる業界にしたい。この業界にはそのポテンシャルがあります。そこで働く現場社員のみなさまも想像を超えるくらい頑張って日本の物流を支えていらっしゃいます。来年もさまざまな法改正があり混乱が予想されますが、働いている方々も社長たちも、根本は同じ想いをもっています。業界を良くするためには行動しなければなりません。私たちはそれを支える存在になりたいのです」
スピカコンサルティング
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やまもと・ゆめひと◎物流業界M&Aの第一人者。スピカコンサルティング取締役・物流業界支援部部長。東京大学工学部卒業後の2010年、野村證券に入社。その後、土木資材メーカーで副社長となり経営に参画。16年に日本M&Aセンターに入社し、19年には全社MVPを受賞し、最年少で部長職となる。23年、スピカコンサルティングに参画し現職。