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2025.07.07 11:00

雲海だけで終わらない—夏も稼ぐスキー場の元祖・星野リゾート トマムの魅力創出20年の軌跡

北海道最大級の滞在型リゾート「星野リゾート トマム」。2006年の雲海テラスの開発を足がかりに、さまざまな仕掛けで進化を続けて20年。3億円の赤字を生んでいたグリーンシーズンは今や、20億円の利益を叩き出す一大シーズンになった。リゾートの価値向上を続けられる背景にあるものとは何か。オフシーズンでの勝ち筋を元祖に聞く。


早朝5時。日の出直後のまだ薄暗いなか、トマム山の麓にあるゴンドラ乗り場に続々と人が集まり列を成す。向かう先は、標高1,088mの場所にある雲海テラスだ。

雲海とは、いくつかの気象条件が揃ったときにのみ発生する霧・層雲のこと。高台から見下ろすと、雲がまるで海のように雄大に広がり、幻想的な風景を一望できる。

雲海テラスは、星野リゾート トマム(以下、トマム)が「ダイナミックな雲海を楽しんでほしい」と、前身の「山のテラス」を経て2006年に開業した展望施設である。累計来場者数は約178万人、年間では約15万人が訪れるという北海道内でも屈指の人気スポットだ。

雲海テラスの眼前に広がる雲海(●月●旬ごろ)。
雲海テラスの展望デッキ眼前に広がる雲海。雲海が発生しやすいのは例年5月から10月で、雲海テラスの営業もこれに合わせている。(提供:星野リゾート トマム)

雲海テラス着想のきっかけは「仙人の日常」

今でこそ、雲海をウリにした展望スポットやリゾート施設は国内にいくつもあるが、そのブームの火つけ役は、20年も前から雲海に目をつけたトマムだといえる。雲海テラス誕生のきっかけについて、総支配人の渡辺巌はこう話す。

「ここは2005年に当社が全面的に運営を担うことになる前は、会員制のラグジュアリーなリゾートでした。冬はスキー需要があるものの、オフシーズンの夏は集客に苦戦しており、夏場は3億円の赤字があったのです。運営を引き継ぐにあたり、グリーンシーズンの赤字解消のための商品づくりは急務でした。そこで着目したのが、雲海でした。アイデアを出してくれたのは、山のゴンドラを整備する索道スタッフたち。 “雲海仙人”もそのひとりです」

“雲海仙人”とは、マウンテンオペレーションユニットの一員として雲海テラスやゴンドラの運営に携わってきた鈴木和仁だ。星野リゾートが運営に入る以前から、ゴンドラ乗り場で勤務する古参スタッフである。

「私たちにとって、雲海は夏場の営業準備時に目にする当たり前の光景でした。きれいだなとは思っていましたが、“売り物”になるのか、早朝だけの稼働で採算が取れるのかと不安で、私は最初はテラスをつくるのに反対だったんですよ(笑)。しかし、いざオープンしたらお客様の反応は上々。写真をたくさん撮られて、本当に楽しそうでした。そんな様子を見て、お客様にとっては特別な光景なのだと確信しました」(鈴木)

“雲海仙人”こと、鈴木和仁。20年もの間、トマム山麓に広がる雲海を見続けてきた鈴木はこのほど定年退職を迎えた。仙人曰く「20年はあっという間でした」
“雲海仙人”こと、鈴木和仁。20年もの間、トマム山麓に広がる雲海を見続けてきた鈴木はこのほど定年退職を迎えた。仙人曰く「20年はあっという間でした」

雲海テラスがあるトマム山周辺での雲海発生率は約40%と必ず見られるものではないが、その絶景に魅せられた人々の口コミがどんどん広がり、オープン翌年には約1万人が来場。開業初年度の900人から激増し、「雲海を見に行く」というトマムが打ち出した旅の提案は、目新しさも相まって見事に浸透していった。トマムの夏場の収益は黒字転換し、“グリーンシーズンにも稼ぐスキー場の成功事例”として、業界内外から大きな注目を集めたのは言うまでもない。

現在、雲海テラスの周辺にはユニークな展望スポットが次々に登場し、さらにその魅力を増している。渡辺が説明する。

「山の標高や角度の異なる地点に全部で9つの展望スポットを設置する『Cloud9計画』を展開しています。雲海を見られかたかどうかで終わらない、山の自然や景色を堪能してもらえるアクティビティですね。最初にできたのが、空中散歩気分で歩ける高さ最大約10m、歩行距離57mの『Cloud Walk(クラウドウォーク)』。山の斜面にあれほど大きな構造物をつくること自体が前代未聞でしたが、当社にしかできないことをとコスト度外視で建設しました。ほかに、巨大ハンモックの中で浮遊感を味わう『Cloud Pool(クラウドブール)』などもあります」

鈴木によると、ゴンドラから降りて、展望デッキよりもまず先にCloud9を目指すお客様もいるくらい好評だそうだ。「それぞれのスポットで、吹く風、見られる景色が異なるのも面白いところですね」(鈴木)

この7月には、新たに7つめとなる展望施設「Cloud Round(クラウドラウンド)」もオープン。円形のミラーフレームに12席の半透明のベンチがブランコのように吊り下げられ、座ると空中に浮かんでいるように感じられるという。残り2つも再来年あたりには建設に着手する予定だ。

雲海がテーマのアクティビティも、ハード・ソフトの両面にわたり多彩に展開する。

過去に実施した、雲の仕組みや発生メカニズムについて学ぶ「雲海Academy」、貸し切りキャンプを楽しめる「雲海テラスキャンプ」などのほかには、現在も好評の雲をモチーフにした客室「雲スイートルーム」、ガイドと巡る「雲海テラスガイドツアー」などがある。

(左)吊り橋構造が目を引く「Cloud Walk」。“雲形”になっているのも特徴のひとつだ。(右)雲状にアスレチックネットが敷かれた「Cloud Pool」。縦横約10メートル、地上からの高さは最大8メートルにもなる。
(左)吊り橋構造が目を引く「Cloud Walk」。“雲形”になっているのも特徴のひとつだ。(右)雲状にアスレチックネットが敷かれた「Cloud Pool」。縦横約10メートル、地上からの高さは最大8メートルにもなる。
 2025年7月にオープンしたCloud Round(提供:星野リゾート トマム)
2025年7月にオープンしたCloud Round(提供:星野リゾート トマム)

現場スタッフから生まれる多彩なアクティビティ

どの季節に訪れても北海道を体感できる滞在型リゾートとして、価値を高めるためにさまざまなアクティビティ開発が行われてきた。そのアイデアの源が「現場スタッフの声」にある点は、星野リゾートらしさであり、大きな強みだ。

たとえば、星野リゾートの各施設では、新人からベテランスタッフまで対等に意見を出し合う「魅力会議」を定期的に実施し、アクティビティや商品づくりを行うのが通例だ。トマムでも1シーズンに6回のペースで実施しており、多いときで20人ほどが集う。

「雲海がまさにそうでしたが、この場所・地域ならではの“魅力”が必ずあります。私たちはそれを発掘し、アクティビティに落とし込んで伝えていきたい。お客様の何気ないひとことや行動などがヒントになることもあるので、スタッフは皆、日頃からお客様が何を見て、何に興味を持たれているのかをさり気なく観察するようにしていますね」(鈴木)

「弊社では、“お客様と接する現場スタッフだからこそ気づく情報”をとても大事にしているんです。トップダウンではなく、あくまで現場視点・現場発想。そうでないと、魅力的な商品は生まれません」(渡辺)

星野リゾート トマムの総支配人、渡辺巌。渡辺によると、道東エリアは富良野・網走・北見など、夏の観光に強いエリアがあるが、トマムは旧来、周遊観光をする際の中継地ひとつにすぎなかった。トマムを旅の目的地にし、通年型の滞在リゾートにすることが最大の目標だという。
星野リゾート トマムの総支配人、渡辺巌。渡辺によると、道東エリアは富良野・網走・北見など、夏の観光に強いエリアがあるが、トマムは旧来、周遊観光をする際の中継地ひとつにすぎなかった。トマムを旅の目的地にし、通年型の滞在リゾートにすることが最大の目標だという。

ただ楽しいだけで終わらせない。「ファーム星野」の活動意義

今や、魅力を開発するスタッフの視線はトマム山の麓に広がる100haもの広大なファームエリアにも注がれる。青々とした牧草地では牛や羊、ヤギたちを放牧。搾った牛の乳は、チーズなど乳製品に加工し、施設内のレストランやショップで提供している。

この「ファーム星野」の展開は2019年、それまで運営していたゴルフ場を廃止し、酪農と観光を実現するファーム星野への転換を図ったことに由来する。

渡辺によるとファーム事業の構想はもともとあったというが、舵切りのきっかけは2016年、北海道を連続で襲った3つの台風だった。

「当時、大規模な土砂崩れが発生して雨水がホテルのフロントにまで流れ込むなど施設全体に甚大な被害がありました。ゴルフ場も復旧が必要でしたが、“夏も楽しめる滞在型リゾート”を追求するにあたり、『ゴルフ場に戻すのではなく、温めていたファーム化構想を実現させるべきでは』という考えに至ったのです」

「実はリゾート開発される以前、この一帯では約700頭の牛が飼われていました。そうした風景に戻し、フレッシュな乳製品をお客様に味わっていただく――それが、リゾートとしてより理想的な姿であると考えました」(渡辺)

本格的な酪農業の展開は星野リゾートとしても初めての試みだ。そもそもリゾート施設内で酪農を行うことが国内では珍しい。

投資家からは「ゴルフ場の方が儲かる」「復旧すべきだ」と反対の声も上がったが、「夏場のさらなる集客アップのために必要な事業だ」と説明を繰り返し、なんとか賛同を得て開発に乗り出したのだという。

ファーム立ち上げから参画し、現在プロジェクトリーダーを務める宮武宏臣は、「ファーム星野」だからこそ提供できる価値についてこう話す。

放牧地から牛舎に牛たちを戻す宮武。もともとマーケティング畑が長かったが、ファーム化構想実現のために都内の勤務地からトマムに移ったという。
放牧地から牛舎に牛たちを戻す宮武。もともとマーケティング畑が長かったが、ファーム化構想実現のために都内の勤務地からトマムに移ったという。

「お客様にフレッシュな乳製品を楽しんでもらいたいのが一番ですが、一般的な観光牧場のように、動物たちと触れ合ってソフトクリームを食べるだけ、ではない体験を提供したかったのです」

「自然に近い環境で酪農を営む風景を見てもらい、ここならではの産業や文化についても楽しみながら思いを馳せてほしいと思うんです」

それを具現化したのが、「モーモー学校」だ。個体別の牛乳を飲み比べて味が違う理由などをクイズ形式で学べたり、放牧した牛たちを牛舎に戻す「牛追い体験」などを盛り込んだ 頭と体の両方を動かすアクティビティで、特に親子連れから好評だという。

(左)飲み比べ体験につかうミルク瓶。パッケージは牛の見た目も忠実に再現している。(右) 味の違いを考えるクイズを出す宮武。普段は、青空学校のように牧草地で行っている。
(左)飲み比べ体験につかうミルク瓶。パッケージは牛の見た目も忠実に再現している。(右) 味の違いを考えるクイズを出す宮武。普段は、青空学校のように牧草地で行っている。

自然と遊び・学びの掛け算で。元祖が狙う「需要の平準化」

朝は雲海テラス、日中はファームという2大コンテンツの柱を、魅力的なアクティビティによって太く高く伸ばしてきたトマム。その成果は、グリーンシーズンの収益20億円という数字にも表れている。

夏も稼ぐパイオニアとしてのトマムでは、今後の成長を見越した展開はどうなるのだろうか。渡辺はこう語る。

「トマムは雲海テラスとファーム星野が軌道に乗ったおかげで、冬だけでなく夏も稼ぐ通年型リゾートとして順調に歩んでいます。ただ、北海道は冬や夏に観光客が集中し、春や秋は閑散期になりがちといった観光課題を抱えていると思います。そのため旅行需要の平準化を促すような取り組みが必要です」

「トマムがあるこの地域は、自然資源の宝庫です。豊富な自然を魅力とした商品、サービスをつくり上げていくことがトマムにおいても、北海道の観光においてもカギだと考えています。トマムのキャッチフレーズは、『北海道の大地を感じるネイチャーワンダーリゾート』。雲海テラス、ファームもまさにそうですが、今後も北海道の自然に、遊び・学びの体験要素を掛け合わせ、星野リゾートだからこそ可能な提案を続けたいですね。『トマムがあるから北海道に行こう』というお客様を増やしていきます」

星野リゾート トマム
https://www.snowtomamu.jp/


わたなべ・いわお◎「星野リゾート トマム」総支配人。1976年生まれ、山梨県出身。2001年、星野リゾート入社。「リゾナーレ八ヶ岳」内レストランOTTO SETTEバンケットユニットディレクターを務めたのち、2015年「星野リゾート トマム」に異動。料飲ユニットディレクター、副総支配人を経験し、2019年より現職。

すずき・かずひと◎「星野リゾート トマム」マウンテンオペレーション。1963年生まれ、北海道出身。1989年、前身のトマムのスキー場で勤務開始。2005年、山のテラスの営業、2006年より雲海テラスの営業に従事。

みやたけ・ひろおみ◎「星野リゾート トマム」ファーム星野プロジェクトリーダー。1978年生まれ、大阪府出身。2002年、星野リゾート入社。軽井沢でブライダル事業中心に従事。2004年代表アシスタント、2006年グループマーケティングユニットIT戦略担当。2017年「星野リゾート トマム」に異動、ファーム事業に従事。

Promoted by 星野リゾート トマム | text & edited by Rie Suzuki | photographs by Yuta Fukitsuka