創業3年以内のスタートアップ起業家を対象にしたピッチイベント「RISING STAR AWARD 2025」で特別賞を受賞したelleThermo(エレサーモ)。同社を選定したサッポロ不動産開発がスタートアップに期待することとは。
Forbes JAPANの名物企画「日本の起業家ランキング」の登竜門といわれている「RISING STAR AWARD」。24年からはサッポロ不動産開発の協賛による特別賞が新設され、同社が運営する恵比寿ガーデンプレイスの新ブランドコンセプト「はたらく、あそぶ、ひらめく。」にちなんだ、革新的なアイデアで世界に挑戦するスタートアップ企業を選出。本年は東京工業大学(現・東京科学大学)発のelleThermoが受賞した。
技術の革新性とひらめきを生み続けるポテンシャルを評価
elleThermoは、熱エネルギーを電力に変換する発電技術「STC」(半導体増感型熱利用発電)の社会実装を目指し、23年2月に設立。STCにおける最大の特徴は、室温程度の低温熱源でも発電が可能で、従来型の熱による発電技術のように冷却部の設置を必要としないこと。ゆえに、これまで使い道がなかった排熱などをエネルギーに変えることができる。東京工業大学の准教授として太陽電池の研究に取り組んできた代表取締役CEO生方祥子(以下、生方)は、STCを開発したきっかけについて、次のように話す。
「自然災害の影響を受けやすい日本の未来を考えたとき、まだ幼かった娘が安心して暮らせる社会をつくりたいと思うようになりました。研究者である私に何ができるのか。その答えが、安全で持続的に利用できる再生可能エネルギーで電力を生み出す仕組みをつくる、ということでした」

STCは、太陽光などをエネルギー源とする「色素増感型太陽電池」とは異なり、半導体の熱励起によって起こる酸化還元反応を利用して、熱エネルギーを電力に変える。そのため、一般的な発電機に使用されるタービンやモーターなどの部品は一切必要ない。設置方法も柔軟で、地中の積層など熱源への埋め込みから、室内や屋根裏など省スペースでの設置が可能だ。
サッポロ不動産開発代表取締役社長 宮澤高就(以下、宮澤)は、特別賞の選定理由について「熱から発電するという革新性はもちろん、この技術を用いた将来の事業展開における多様なアイデアの可能性を高く評価した」と話す。
「STCをどのように使っていくのかという点において、ひらめきが無限に生まれてくるのではないかと感じました。恵比寿ガーデンプレイスも、さまざまな刺激がビジネスに良い影響をもたらし、新しいアイデアやひらめきが生まれる、そんなオフィスを目指しています。『RISING STAR AWARD』 でのピッチで、『周囲の方とのコミュニケーションのなかから、自分が思いつかないようなユースケースやアイデアをもらっている』という生方さんのお話を伺い、恵比寿ガーデンプレイスが目指している『はたらく、あそぶ、ひらめく。』を実践されていると感じました」(宮澤)

非日常的な刺激を与えてくれる環境とは
未利用熱を電力へと変換する革新的技術の社会実装を目指すelleThermo。そして、まちづくりやオフィス開発を通じて、人と地域の可能性を引き出すサッポロ不動産開発。フィールドは違えど、いずれも創造性を具体化し、豊かな未来を実現するための持続的な挑戦を展開している。
生方がSTCのアイデアを思いついたのは、幼い子どもを寝かしつけていたときだったという。よく知られているように、オフィスや研究室で机に向かっていても、優れた発想は生まれにくい。散歩中やリラックスした時間など、思いがけない瞬間にこそ、ひらめきは訪れるものだ。その点、恵比寿ガーデンプレイスはオフィスのほか、カフェやレストラン、映画館、ライブハウス、美術館、ブルワリーなど多彩な施設がそろう。仕事場を少し離れるだけで、非日常の楽しみに触れられる環境がある。
「ひらめくときは、何かしらの外部刺激がトリガーとなって、脳内の情報がつながっていく感覚があります。刺激が乏しい時間を過ごしていると、そのようなことは起こりにくいものです。ほっと一息できる場所や、緑あふれる景色を眺めることができる恵比寿ガーデンプレイスは、とても魅力的な環境ですね」(生方)
「アイデアや創造性の源泉は、多様な刺激と心の平穏、余白のようなものが交差する環境だと考えています。例えば、カフェでの何気ない会話や異業種の人々との交流、あるいは遊びのコンテンツなどが新しい視点や発想を生み出す契機になる。オンとオフがシームレスにつながる恵比寿ガーデンプレイスは、こうしたひらめきを得ることができる場所だと考えています」(宮澤)
サッポロ不動産開発では、恵比寿ガーデンプレイスタワーに入居する企業が参加できるイベントも開催。イノベーションの種が生まれる機会になればと、企業間交流の場を提供している。

恵比寿をスタートアップの聖地にするために
長期的なビジョンに、STCを活用した大規模な熱発電所の実現を掲げるelleThermoだが、目標達成のために乗り越えなければならないハードルは数多い。「世界のエネルギー問題を解決するという目標を掲げて取り組みを進めていますが、メガサーマル発電所の実現には、少し時間がかかると考えています。ロードマップのなかには、STCを組み入れたデバイスなどを開発し、実用化するフェーズも設けています。このような取り組みにより、経営基盤を強化し、着実に歩みを進めていきます」(生方)
生方の話を受け、宮澤は「人が集まる場所で実証実験を行う段階へと進んだ際は、ぜひ恵比寿ガーデンプレイスを活用していただきたい」と応える。
「STCは屋内、屋外のどちらでも設置が可能なので、いろいろな活用方法が試せそうですね。例えば、屋外に配されたベンチの裏側にSTCを設置してコンセントと接続すれば、ベンチでスマホを充電することができます。こうしたアイデアを皆さんと一緒に発案できたらうれしいです」(生方)
両社の協業が実現すれば、数多くのひらめきが生まれ、恵比寿ガーデンプレイスのブランドコンセプトが体現されることになることだろう。
「RISING STAR AWARD」への協賛に加え、入居企業の成長を後押しする取り組みを展開しているサッポロ不動産開発。宮澤は「今後は周辺地域も巻き込んだ取り組みにしていきたい」と意気込む。
「閑静な住環境に加え、トレンドのグルメやアート、柔軟な働き方を支える多様なオフィスなど、多彩な要素が融合する恵比寿は、起業家やイノベーターを惹きつける魅力にあふれています。この街でスタートアップの成長を支える場をつくること。それが私たちの使命だと考えています。若い企業の成長と活躍が、恵比寿という街の価値を高める原動力になる。そのためにも地域の方々と協力し、スタートアップの活動を支えるイベントなど、取り組みをより一層広げていきたいと考えています」(宮澤)
開業から31年。恵比寿のランドマークとして、最先端の文化を発信し続けてきた恵比寿ガーデンプレイスは、今後、挑戦する企業とともに歩む場として、新たな役割を担っていく。
サッポロ不動産開発
https://www.sapporo-re.jp/
みやざわ・たかなり◎サッポロ不動産開発代表取締役社長。サッポロビール(現サッポロホールディングス)入社後はビールの営業部門に配属。1992年、恵比寿ガーデンプレイス建設プロジェクトに参加。取締役執行役員アセットマネジメント事業本部長、専務執行役員などを経て、23年より現職。
うぶかた・さちこ◎elleThermo代表取締役CEO。東京科学大学物質理工学院材料系准教授。東京大学工学部卒業後、理化学研究所フロンティア研究システム基礎科学特別研究員などを経て、2010年、東京工業大学(現・東京科学大学)理工学研究科准教授に赴任。23年elleThermoを創業。