経済・社会

2024.05.08 14:15

記録的円安がもたらす「インバウンド消費絶好調」の落とし穴

稲垣 伸寿

Photo by VCG/VCG via Getty Images

ゴールデンウィーク(GW)期間中の東京・日本橋。国内の観光客でにぎわいをみせていたが、海外旅行者の姿も少なくなかった。

「日本には1カ月滞在する。レンタカーを利用して箱根や富士山、金沢、京都にも足を運ぶ予定」

フランス・リヨンに住む男女の2人連れはこう話してくれた。

外国為替市場での円安進行がインバウンドの回復を後押しする。円を売ってドルを買う動きが活発化。一時は「1ドル=160円台」と1990年4月以来、約34年ぶりの円安水準に到達した。

最近の円安は、日本の観光客の海外旅行にとって、強い向かい風だ。GWは国内旅行で済まそうという人が周囲には少なくなかった。

実際、観光客を迎え入れる現場からも「国内の宿泊客のほうが多い」(横浜の高級ホテル)という話も聞かれた。だが、「平日はフロント前のロビーがタクシー待ちの海外旅行客であふれかえっている」(同)。

日本政府観光局が発表した3月の訪日外客数は308万1600人となり、単月では初めて300万人を突破した。前年同月比で69.5パーセント増。新型コロナウイルスの感染拡大が本格化する前の2019年3月の数字をも11パーセントあまり上回った。

外国客の旅行形態の二極化が

インバウンド拡大で、日本へ落とされるおカネも増えている。観光庁によれば、今年1月~3月期の訪日外国人旅行消費額は速報ベースで1兆7505億円。新型コロナ感染拡大前の2019年同期に比べて52パーセントも増加した。今年1月~3月期の1人当たり旅行支出は20万円を上回る(クルーズ客を除いた一般客、以下同)。

「海外からの富裕層旅行者の消費額はどんどん上がっていると思う」

こう話すのは奈良にある日仏通訳会社の経営者だ。

「奈良、京都、大阪のおもな観光地をハイヤーで回り、食事は神戸で『神戸ビーフ』。同行する通訳にも同じ料理をご馳走してくれる」(同) 

なかには「なるべく観光客のいない穴場の場所へ行き、観光客のいない店で和食を食べたい」といった、応えるのが簡単ではないリクエストもあるそうだ。新幹線のグリーン車の乗り場でも海外旅行者が行列をつくっている。

ただ、1人当たりの旅行支出は今年1月~3月期、2019年同期から約42パーセント増えたが、昨年同期との比較では約1パーセント減った。

円の名目実効為替レート(日銀公表、月次)を見るとこの間、円がドルだけでなく、多くの通貨に対して値下がりしたことがわかる。2022年12月の82.18から今年3月には75.12と8パーセントあまり下落した。

つまり、旅行者の国・地域の通貨ベースだと、1人当たりの消費額の減少幅がさらに大きくなる計算だ。

円安で割安感が強まり、海外からの観光客流入に弾みがついたのは間違いないが、最近はバックパッカーの姿を見かけるのも珍しくない。富裕層と、低予算で楽しむ人たちという旅行形態の二極化が起きている面もありそうだ。
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文=松崎泰弘

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