食&酒

2024.04.25

世界初の「木の酒」実現へ 未活用素材でエシカルを当たり前に

エシカル・スピリッツ代表取締役CEO 小野力 photograph by ayato ozawa

Forbes JAPAN 2024年6月号は、世界を救う希望「NEXT100」特集。「多彩な新・起業家たち100人」にフォーカスした企画だ。地球規模から社会、地域まで様々な課題に対して、アントレプレナーシップを持ち、「自分たちのあり方」と「新手法」で挑む起業家やリーダーたち100人を「NEXT100」とした。独自のスタイルや美意識で新たな価値指標をつくりながら、多くの人とともに社会的・経済的インパクトを出している人こそ、これからの世界の希望になる。「よき未来のための、新しいクレイジーな人たち」に注目だ。

そのなかで今回は、小野力が代表を務めるエシカル・スピリッツの取り組みを紹介する。廃棄される酒かすなど未活用素材を使用したクラフトジンの生産や、蒸留所を運営する同社は、世界初となる “木の酒” の生産販売に挑戦するプロジェクト「WoodSpirits(ウッドスピリッツ)」に取り組んでおり、商品化に向け準備を進めている。原材料には間伐材や未利用材を使用し、廃棄されるはずだった素材を蒸留することで循環経済の実現を目指す。

「WoodSpirits」の“木の酒”とは、木を粉砕し、そのまま発酵・蒸留し作り出したまったく新しいお酒。これまで「木の酒」と呼ばれるものは、木の樽で熟成した酒や、木のオイルを注入した酒だったが、同社は国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所が開発した、特殊なミキサーで木材を粉砕してクリーム状(スラリー)にする「湿式ミリング処理」技術を活用。スラリーに酵素と酵母を混合することでアルコール発酵をさせ、それを蒸留することで無色透明の新たなお酒を生み出した。スギやミズナラ、白樺、クロモジなど、木の種類や樹齢、産地によって、味や香りが異なる。
木そのもの粉砕してクリーム状にし、発酵・蒸留させる“木の酒”

木そのもの粉砕してクリーム状にし、発酵・蒸留させる“木の酒”

原材料に森の間伐の際に生まれる「間伐材」や「未利用材」などを使用することで新たな未利用資源の活用法となり、林業の活性化や持続可能な森林へ貢献につなげていく。

2021年6月にプロジェクトが発足してから、2023年9月に茨城県つくば市にある廃校になった小学校の体育館を改装し、新たな蒸溜所を建設することを発表した。

同社ではこれまで、酒蔵から廃棄される予定だった酒かすやコロナ禍で廃棄されてしまうはずだったビール、コーヒーを抽出したあとのコーヒー粉、チョコレートの製造過程で捨てられることの多いカカオの皮の部分などのあらゆる未活用素材を使ったジンの製造・販売を行なってきた。創業と同時に蒸留した、シグニチャーブランドであるジン「LAST」は、​​廃棄されるはずだった酒かすを使用しており、発売から3年で、酒かす約21トンの利活用とCO2約5.2トンの削減に成功している。
エシカル・スピリッツのシグニチャージンブランド『LAST』の第3弾として誕生した『LAST ELYSIUM』

エシカル・スピリッツのシグニチャージンブランド『LAST』の第3弾として誕生した『LAST ELYSIUM』

目指すのは「エシカルであることが、当たり前の世界」。小野は「エシカル消費を目的として捉えてはいません。酒かすや木材など、その素材が持つ豊かな香りに価値を感じ、その隠れた才能を引き出す蒸留を行うことで『美味しいと思ったら、エシカルだった』という体験を広げていきたい」と語る。

これまで価値を見出されてこなかった素材の可能性を引き出し、身近な「美味しい」によって循環社会への貢献につなげていく、そんな同社の挑戦にこれからも注目していきたい。

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