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2024.04.24 09:45

2兆円の買収事例も誕生 「バイオデザイン」から医療起業人材が生まれる理由

露原直人
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3カ月で200個のニーズを探し出す

──私自身、フェロー(研究員)としてバイオデザインのプログラムを体験しましたが、これが、徹底的に「ニーズ」を探し出すところからスタートすることに驚きました。3カ月かけて200個の課題をみつけるようにと言われたのです。医学部の教育はどうしても技術シーズ(新たなものを生むための技術)に重きが置かれているので、ニーズに取り組む姿勢は新鮮でした。

でもよく考えると、これは教育として意義あるものだと思います。なぜなら、革新的なものは、ニーズとシーズがうまくマッチして初めて生まれるからです。医学部では、シーズの生み出し方はすでに学んでいます。ゆえに、バイオデザインでは、欠けているもう一方の「ニーズの見つけ方」を学ぶのです。バイオデザインは2021年に設立20年を迎えましたが、この間、ここから生まれたプロダクトが助けた人は430万人になったと発表されました。バイオデザインがこれほどまでにインパクトあるスタートアップを生んでいるということも、理解できる気がします。

──バイオデザインはスタンフォードで始まりましたが、なぜ成功しているのでしょうか?

私はMITで学び、東海岸に長く住んでいましたが、そうした経験から考えても、バイオデザインのような活動は、スタンフォード大学でなければ始まらなかったと思います。バイオデザインの活動自体が、当初スタートアップでした。始めた当時は、うまくいくという確証はありませんでした。誰かが大きなリスクを取って、夢を信じなければならなかったのです。夢に賭けようとする人たちが、スタンフォード大学をユニークな場所にしているのだと思います。

シリコンバレーも、夢に資金を投じる人々によって築かれましたよね。ここは、文化的に大きな飛躍が可能な場所なのだと思います。当時、スタンフォード大学以外で成功させるのは難しかったでしょう。

──今のシリコンバレーでのコネクションはどのようにして獲得したのでしょうか?

共同創業者のポール教授は、心臓を専門とする医師であり教授でした。そのキャリアの中で、多くの特許を取り、新しい機器を発明し世に出していることで国際的に知られている人です。起業家として活躍し、ボストン・サイエンティフィック社に事業を売却した経験もあります。こうした経験を通じて、さまざまなベンチャーグループや大企業のリーダーたちとの関わりを深めてきました。彼の高い実績と評判が、バイオデザインの土台になったと思います。また、医療技術におけるイノベーションエコシステムでは、誰もが真に人々の助けになりたいと願っているという点で、素晴らしい関係性が築きやすかったのです。今でも、講義を依頼したり、メンターや学生の指導、パネルディスカッションへの参加を依頼すると、多くの人が喜んで応じてくれます。バイオデザインは、地域社会の寛大さに恩恵を受けて発展してきました。

──日本で、我々世代が独自のキャリアを作っていくために必要なことがあれば教えてください。

多くの若者が非伝統的なキャリアパスを選択するようになるためには、文化的な変革が必要です。先輩や教授のたどった道とは別の道に挑戦するには、そういう多様性、挑戦を受け入れる文化が必要です。

文化的変革のために、我々のバイオデザインは日本でも役に立つのではないかと考えています。医学部だけでなく工学部やビジネススクールの若い学生たちにバイオデザインを体験してもらいたい。そうした体験を通じて、個人がより革新的なキャリアを追求することの可能性が拓けるし、自分を含めて人々が多様な機会を求める柔軟性が認められるようになると私は考えています。
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スタンフォード日本人講師が伝授 「医療起業」志望者が学ぶ思考プロセス

文=芦澤美智子 インタビュー=串岡純一 編集=露原直人

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