アジア

2024.04.23

アジアの一部の国でいまだに「現金が主流」である理由

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金融業界ではデジタルの方が好ましいとされる傾向があるが、常にそうというわけではない。

アジアの農村部では主に、インフォーマルな現金のやりとりをベースに経済が動いている。これにはいくつかの要因がある。1つ目は、キャッシュレス決済を使いたくても、インターネットへのアクセスや銀行サービスが限られているなど、インフラがあまり整っていない場合が多いことだ。

2つ目は、農村部の住民はたいてい、デジタル決済システムに不信感を抱いているか、不慣れということだ。加えて、農村部では多くの商売がインフォーマルなものであるため、単純明快とみなされる現金取引の方が向いている。

デジタルディバイド(情報格差)

ただし、キャッシュレス決済への移行に関する主要な課題は、デジタルディバイド(情報格差)だ。都市部と農村部とでは、デジタル技術とインターネット接続に隔たりがある。多くの地域では、技術インフラどころか、電気といったより基本的なインフラすら、限られているか、脆弱だ。

筆者は2023年に、Solomon Islands Central Bank(ソロモン諸島中央銀行)との共同プロジェクトのため、現地を視察した。南太平洋にあるソロモン諸島は、900以上の島々からなる島嶼国だ。地形が多様であり、山岳地帯もあれば、密集した熱帯雨林もあり、海にはサンゴ礁もみられる。

行政と経済の中心地は、ガダルカナル島にある首都ホニアラで、同国最大の都市でもある。同国の主要な経済基盤は、自給自足の農業、漁業、林業だが、観光業にも力が入れられている。

ソロモン諸島はまた、電力のほとんどをディーゼル燃料発電に頼っている。この状況について少し考えてみてほしい。ディーゼル燃料は、巨大タンカーでシンガポールやオーストラリアから定期的に運ばれてくる。そして国内施設に貯蔵され、火力発電に使われる。停電や航路の混乱が頻繁に起きれば、悲惨な事態を招きかねない。太陽光発電が徐々に増えてきているとはいえ、高いコストが制約になっている。

同国では、世界各国の開発機関の支援を受け、ティナ川水力発電所開発計画が進行中だ。このプロジェクトが完了すれば、ソロモン諸島の電力のほぼ70%は一貫して、再生可能な電力源から供給されるようになる。しかしそれまでは、ソロモン諸島の送電網は極めて脆弱なままだ。

筆者が現地視察中に、カフェで話し合いをしていると突然停電が発生し、携帯電話がつながらなくなった。突如として、クレジットカードやスマートフォンは使い物にならなくなり、現金が唯一無二の決済手段となったわけだ。これが、ソロモン諸島の中心地ホニアラの現状だ。離島となれば、インフラやインターネット接続を巡る問題はさらに深刻となる。
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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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