AI

2024.04.23

日本初のマイクロソフトAIラボが神戸にできた理由

日本で唯一の「マイクロソフトAIラボ」が、神戸市にある。
 
同ラボは2017年に同社本社の位置するワシントン州レドモンド(シアトル郊外)に世界で初めて開設された。レドモンドの他、ドイツ・ミュンヘン、中国・上海に続きこの23年中にウルグアイ・モンテビデオ、サンフランシスコに設置され、世界で6番目となるラボは2023年10月、神戸市にオープン。マイクロソフトにとって、日本で初めての試みとなった。

なぜ神戸に?

正式名称は「Microsoft AI Co-Innovation Lab Kobe」。日本初のラボがなぜ神戸に位置するのか。実際に足を運ぶと、神戸市の取り組みにいささか驚かされた。
 
同市は2016年、全国に先駆けスタートアップ支援事業を開始。旗上げだけなら多くの自治体が試みるところだが、同市は新産業課、新産業創造課などを設置。起業家育成プログラム、Urban Innovation KOBE、SDG’s Challengeなどを軸に具体的に取り組み、スタートアップへの出資も行っている。自治体として「イノベーション創出の取り組み」を面でおこなっているのだ。
 
外部人材の登用についても積極的で、スタートアップと同じ目線で伴走できるよう、民間企業で活躍した経験を持つ人材を神戸市職員として「イノベーション専門官」に任命。この「専門官」が実際にレドモンドのマイクロソフト本社に足を運んだことが、きっかけとなりAIラボの誘致に至った。ここでは、地元企業である川崎重工もさらに一役買った。神戸市がいくらラボを誘致しようが、それを活用する企業のメドが立たなければ、無用の長物に。川崎重工は、AIラボの活用はもちろん、積極的に誘致も手助けした。

マイクロソフトというと、いまだに「Windows」を思い浮かべる方もいるかもしれないが、同社はまったく別の企業に変貌しているとして差し支えない。現在の主要ブランドは「Azure」。かつてWindows Azureと呼ばれ、現在の正式名称はMicrosoft Azureだ。いわばクラウド・コンピューティング・サービス。同社の主力サービスであるこのAzureを契約している顧客企業がいかに利活用しているか、その動向を把握するために設けられたのが同AIラボの出発点だ。
 
そのため、Azure顧客企業は、無償で同ラボを利用できるように設定されているという。同ラボの平井健裕所長はこの意義について「営業活動とは別に直接お客さまにリーチして何かを実現しすることで、我々のサービスで足りない点はどこか、またインドストリアルの中でどのポイントがトレンドになりそうか、いち早く入手し、製品開発やエグゼクティブにフィードバックする役割を担っています」とし、同社ではこれを「シグナル」と呼び、ラボの存在意義としている。

Microsoft AI Co-Innovation Lab Kobe 平井健裕所長

Microsoft AI Co-Innovation Lab Kobe 平井健裕所長

独自の「ラピッド・プロトタイピング」

ソリューション開発はもちろん一筋縄ではいかない。発想から製品を定義し、そこにアプローチするテクノロジーがあり、開発があり、テスト・実験が繰り返されたのちに、マーケットに出ていく。この過程は、長く曲がりくねった先の見えない険しい道を行くがごとくだ。この過程を加速させ(スプリント)、伴走するのが同AIラボの大きな役割だ。
 
「スプリント」が役割でもあるので、実際にラボを利用してもらう期間は1週間のみ。まずは利用申請・承認を1週間以内で設計ステップへ、その後イントロ・セッション、テックコールなどに4週間程度を費やし設計を済ませてから、AIラボに実際に入り1週間で開発を完了させる。これは「ラピッド・プロトタイピング」と呼ばれている。
 
このため、2024年に入ってからは毎週このスプリントが実施され、ラボの来訪者は3月21日時点で400名以上92社に上り、ラボ利用申込は55社。無償で利用されているだけに、今後、増強が必要とされるほどの盛況ぶりだ。
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文、写真=松永裕司

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