年400万円獲得のチャンスも 日本版「仮想株式」が変える報酬のあり方

南青山アドバイザリーグループCEO 仙石実(撮影=曽川拓哉)

日本郵船は今年の春闘で、過去最大となる昨年比18パーセントの賃上げを労働組合に回答した。また三菱UFJ銀行の賃上げは8.5パーセント超で34年ぶりの高水準に。TOPPANホールディングスも平均7.8パーセントと過去50年で最大の賃上げ率となるなど、大企業での給料アップが相次いでいる。
 
未上場企業でも給料水準は上がっており、上場時に経済的インセンティブをもたらすストックオプション(SO)の導入も進み、「スタートアップ=(給料が)安い」というイメージも薄れてきている。

未上場、数十社が導入

最近では、業績に連動して報酬を与える新たな制度を導入する企業もある。それが、会計事務所の南青山アドバイザリーグループが2023年5月に発表した「エンゲージメントストック」だ。これは従業員に仮想の株式(ポイント)を付与し、業績の達成状況に応じてそれを現金化するもので、部署ごとにも設定が可能。業務委託やアルバイトにもポイントは付与できる。
 
同様の仕組みはアメリカの上場企業ではすでに浸透しており、「ファントムストック」と呼ばれている。これは株価に基づいて利益を配分するもので、クレディ・セゾンや三菱地所といった日本の企業でも採用され始めた。エンゲージメントストックは、まさにこのファントムストックを参考にしてつくられたものだが、その特徴は主に未上場企業で使われている点だ。
 
電子契約サービスや本人確認サービスの開発・運営を展開するTREASURY、携帯電話販売代理店事業である店舗運営事業を展開するCSリレーションズ、上場を目指すスタートアップ、介護業や整体業などの中小事業者に至るまで、数十社が導入している。導入企業の多くは、年間で数十万円ほどの報酬がつく設計をしているが、なかには400万円分のポイント獲得のチャンスを用意している会社もあるという。
 
南青山アドバイザリーグループCEOの仙石実は次のように話す。
 
「未上場企業が株価を算定するには、会計事務所などに費用を払う必要があります。それなら、営業利益に連動するようにすれば、その必要もなくなるのではないかと考えたんです。また、株価は複雑な要因が絡んでくるので、営業利益を基準にするほうが社員にとってもわかりやすいだろうと」
 
エンゲージメントストックは、その名の通り、従業員のエンゲージメントを高めることが目的だ。そのために、営業利益の達成以外にさまざまな条件をつけることができる。
 
例えば「ポイントを現金化するのは付与から3年後」「特定の資格試験への合格」「社内イベントへの皆勤」といった具合に条件を設定し、会社との緊密な接点を意図的につくり出したり、離職率防止に繋げたりすることも可能だ。
 
なかにはこんなケースもある。一旦会社でポイントをプールし、1ポイント=1万円で固定。社員の賞与時に併せてポイントを支給するが、現金化するのは付与から3年後。
 
「3年間勤続したときに、功労賞で金一封を渡すという文化があるじゃないですか。感覚はそれと同じなんです。福利厚生にゲーミング要素が加わったら面白いのではないかなと考えました」
 
また「ポイントの可視化」ということも、エンゲージメントストックの肝で、個々人のスマートフォンから、保有ポイントとそれに対応する現金報酬、将来の事業計画達成による報酬獲得予測が確かめられる設計となっている。
 
従業員が見られる画面。同社ではストックオプションを管理するサービスも行なっており、エンゲージメントストックの両方を一括で管理できる 

「例えばSOは、それがいくらになって返ってくるのかが見えづらく、行使することを忘れてしまう人もいる。自身の業務が直接的に(SOの目的である)企業価値向上に貢献しているかどうかもわかりにくいという課題もあります」
 
付与されるポイントを可視化することで、目標達成を自分事化でき、ひいてはやる気アップにもなるというわけだ。
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文=露原直人 撮影=曽川拓哉

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