リーダーシップ

2024.04.15 14:30

実例に学ぶ、部下のやる気を引き出すために必要なこと

木村拓哉
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例えば、会議で重要な議題を取り上げる時には、自分にこう問いかけてみるといい。「会議の参加者たちは、このトピックの文脈において、何に価値を見いだすだろうか? それは、私の見方とどう違うのだろうか?」

話を聞いた参加者は、あなたが語るアイデアの価値を理解し、その価値が自分自身にどう影響を与えるかを理解した時に初めて、注意を払うはずだ。つまらない話し手になってしまうのは、聞き手のためにそうした「点をつなぐ」作業を行うことを忘れてしまった時なのだ。

実例で見る、やる気の引き出し方:ある会計幹部の場合

筆者は数年前に、とある最高監査責任者(CAO)が主催する、会計報告業務をテーマとしたミーティングへの招待を受けた。

本題に入る前に正直に言っておくと、最初はあまり気乗りしなかった。「いびきの大合唱が聞こえるような、退屈なミーティングになるだろう」と思っていたのだ(CAOの役職にある読者の皆さんには、私の不明をお詫びしたい)。

だが驚いたことに、このミーティングは、私がそれまで出席した中でも最高に実りあるものだった。この場で熱い議論が交わされたのは、主催者であるCAOのおかげだった。

やる気を引き出すために、「より良い明日」にフォーカスする

このCAOがミーティングを企画したのは、法制度の変更によって、会計報告業務に大きな変更が必須となり、仕事量やチーム運営に影響があるからだった。これらの変更が間近に迫っている以上、このCAOにとっては、とにかくやるべきことを推し進め、今後予想される変更に関連する計画や作業の流れの立案に集中する方が簡単だっただろう。

だがこのCAOは、チームとのミーティングに時間を割き、未来にフォーカスすることを選んだ。そして、このプロジェクトを完遂した6カ月後の姿について、非常に説得力のある予想図を描いてみせた。

CAOが、対話を通じてチームを先導するなかで、チームメンバーたちが示す反応は興味深かった。対話の中で、「リソースがありません」「これ以上の変更に対応できません」といった声があがるたびに、CAOは穏やかにメンバーを促し、未来に注視するように仕向けていった。

すると、たった数時間のうちに、もともとは変化に抵抗し、さらには変化を恐れていたチームは、この取り組みが監査チームとしての改善につながる道だと考えるようになった。

最終的に、会計報告業務における変更は、短期的には面倒なことだが、長い目で見ると、それまで作っていた、何百もの価値のない報告を作成する作業からついに解放されるきっかけになると、メンバーは納得するに至った。

「大変さ」を強調しすぎていないかチェックする

ある事柄について、「難しい」「厳しい」「大変だ」などと困難な要素を挙げるのはたやすい。だが問題は、そうした言動がうんざりした思いを生み出すものであり、行き詰まりからの出口を示さず、誰のやる気も鼓舞することがない点だ。

仕事量の多さ、リソースの欠如、自分たちの忙しさ、市場環境の厳しさ、終えたばかりの四半期がいかに大変だったか、といった話題について話すのは、あるポイントを超えると、うんざりする気持ちを生み出すだけだ。馬鹿げたことに、我々は社内でこうした会話を頻繁に行う。これは非常に非生産的な行為だ。なぜならたいていの場合、こうした会話は「状況がいかに厳しいか」という以上の話には発展しないからだ。

自分たちがこうしたパターンに陥っていないか、意識することから始めよう。もしそうなっている場合は、会話の焦点をずらし、解決策や未来、あるいは悲観的な予測とは違った結果を引き出すために、自分たちでコントロールできる要素についても触れるようにしよう。

人のやる気を削いでしまうのは、別にその人の性格上の欠陥ではない。どれだけ優秀な人でもそうなる可能性はある。だが幸い、シンプルな行動を変えるだけで、即座に改善が見込めるはずだ。

まずは手始めに、以下のような問いを自分に投げかけてみよう。「自分の主催するミーティングに、他の出席者は本当に熱意を持って参加しているだろうか?」「困難な課題や、状況の厳しさについてばかり話していないだろうか?」「周囲の人は、自分を『やる気を鼓舞してくれる人』と表現してくれるだろうか?」「十分に人の話を聞き、質問をしているだろうか?」

これらの問いに対する自分の回答を、興味深く検討してみよう。そして、シンプルな変化を2つか3つ起こせないか、考えてみよう。

これは、やってみる価値のある取り組みだ。なぜなら、他の人のやる気を引き出し、エンゲージさせることができれば、それは翻って、自分自身のやる気や活力にもつながっていくからだ。

forbes.com 原文

翻訳=長谷 睦/ガリレオ

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