アート

2024.04.10 09:45

イノベーション創出にアートを通じた「自己アップデート」が有効な理由

大柏 真佑実

アルスエレクトロニカ・センターにおけるデータビジュアリゼーション(撮影:岩渕匡敦)

アートと企業経営にはどのような接点と可能性があるのか━━。前回は昨秋に開催された世界的メディアアートの祭典、「アルスエレクトロニカ 2023 」での経験と、同祭典のコンペティション部門を統括する小川絵美子氏へのインタビューを通じ、探っていきました。

今回は一歩踏み込んで、メディアアートが企業を構成する「個人」へ与える影響にフォーカス。グローバル化が進み、多様な価値観の理解と社会問題への取り組みがビジネスで不可欠となるなか、メディアアートは個人の価値観をどう変えるのか。そして企業や社会にどのような価値を生み出すのか、お話を伺いました。

メディアアートで自身の世界観をアップデートする

平岡:アルスエレクトロニカに携わる企業の人々、あるいは個人はメディアアートを通じて何を得ていくのでしょうか。

小川:参加者はまず作品を通じて、アーティストがどのようなテーマを取り上げ、どのように課題を乗り越え、表現しているのかを理解しようと試みます。そのプロセスでアーティストの考え方や大事にしていることことに触れ、吸収していきます。そうして自分のものとは違う、「新しい視点」を得て自ら発見する力を身につけ、自身の価値観を「アップデート」していくのです。

アルスエレクトロニカのアート思考は、未来思考です。参加者は作品を通じて、そのポジティブな側面とネガティブな側面、双方を目の当たりにすることによってさまざまトピックに興味をもち、深く考えるようになります。例えば気候変動をはじめ社会政治、人権、ダイバーシティなどの社会課題、最先端の科学やテクノロジーが可能にする未来、既存のテクノロジーの新しい使い方、市民参加やコラボレーションによって可能になるイノベーションなどです。未来社会の世界観をアップデートできる、とも言えるかもしません。

平岡:なるほど。それが企業で事業変革やR&Dを推進するときに不可欠な、「自らの考えや価値観をアップデートしていく」姿勢につながるのですね。アートを「面白がれる姿勢」は、新しいことや変化を受け入れる柔軟性だとも言えるでしょう。そういう姿勢をもつ人が、企業でも活躍できる時代です。
ERBSENZÄHLER Quality Sorter V2 / Verena Friedrich(撮影:著者)。参加者が実際に作品を体験し、アーティストの世界観に触れる様子

ERBSENZÄHLER Quality Sorter V2 / Verena Friedrich(撮影:著者)。参加者が実際に作品を体験し、アーティストの世界観に触れる様子

「理解しにくいこと」が苦手な日本人こそアートを

平岡:欧州では、こうした個人で価値観をアップデートしていくことの重要性についての理解が進んでいるようですが、日本は遅れているようです。違いは一体、どこから生まれてくるのでしょうか。

小川:陸続きで国々が隣り合う欧州では、多民族間で経済と文化を作り上げてきた歴史的背景から、環境や人権、ダイバーシティへの配慮はビジネスを存続するために不可欠です。そのため人々にはアートを活用してそれらの社会問題を見つめ直し、対処する方法を積極的に学ぼうとする姿勢があります。

平岡:かつてロンドンへ留学していたのですが、英国にもスタートアップを支援するベンチャーキャピタルやイノベーションファンドがたくさんありました。それらは支援の必須条件として社会問題にアドレスしていることを組み込んでいるケースが多く、驚きました。しかし日本では社会課題解決への意識が、個人においても企業においても、欧州の国々より低いと言わざるを得ない状況です。
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文=平岡美由紀

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