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2024.04.16 13:30

みかんをブランドにしたローカルヒーロー。世界32カ国へ展開 「稼ぐ農家」をつくる | 伊藤農園

Forbes JAPAN編集部

とにかくやれることをやり尽くす

現在は従業員約100人(うち正社員60人)を擁する伊藤農園だが、伊藤が入社した当時は正社員0人、パート従業員も10人ほど。売り上げは1億円足らずだった。

「今思い返すと本当に何もない状態。家業に入ってまず決めたのは『売り上げ10億円』という目標。自分はどこまで上を目指せるのか。力試しの発想でした」

10億円の売り上げを達成するには何が必要か。自分にできることをとにかくやってみるしかない。そう考えた伊藤は、まずは商品の価値を認めてもらうべく、百貨店のバイヤーや海外のミシュラン星付きレストランのシェフにアプローチ。同時に海外輸出や通信販売もスタートさせた。

新たな顧客層を生み出すべく商品開発にも着手。ストレートジュースとマーマレードしかなかった商品数を100近くにまで一気に伸ばしていった。

「1年で1、2カテゴリつくることを目標にしていました。ひとつみかんの商品ができれば、別の柑橘類でも展開していく。開発で大切にした視点は、すでにある商品をみかんに置き換えてみること。そして『もったいない』を解消できるもの。エッセンシャルオイルはジュースをつくるときに廃棄で出る皮を再利用しています」

100%ピュアジュースシリー ズは、皮まで搾らないのがこだわり。ひとつずつ手作業で特別な機械にセットしていく。

100%ピュアジュースシリーズは、皮まで搾らないのがこだわり。ひとつずつ手作業で特別な機械にセットしていく

農家から仕入れたみかんは大き さや状態ごとに選別され、出荷されたり加工されたりする。

農家から仕入れたみかんは大きさや状態ごとに選別され、出荷されたり加工されたりする

組織改革も必須だった。2011年から新卒採用を始め、従業員も増加。社員の定着率を上げるため、各部署から1人ずつ代表者が集まって組織される4つの委員会制度を構築した。そのひとつが商品開発委員会。若い社員らがアイデアを出し合い、新商品を生み出す場とした。そこで生まれたのが、みかん胡椒だ。

これらの成果もあり、2018年には売り上げ10億円、23年には20億円を達成した。当時2円だった規格外品の買い取り価格は現在40円まで上昇。年間の仕入れ量も2000トンを超えた。次なる目標は今後5年間で30億円を達成することだ。そのための新たな構想が、ショップやレストラン、農業体験宿泊施設を併設した「伊藤農園ビレッジ」。24年4月には既存ショップの隣にカフェをオープンさせる。

地元の耕作放棄地を買い取りみかん畑として開拓するなど地域農業への思いも強い伊藤。買い取った面積は18ヘクタール(東京ドーム4つ分)の広さにまでなった。「農家さんたちに『まだまだ農業を続けられるぞ』と思ってもらえる取り組みを続けて、地域やみかん業界にとって影響力のある会社になっていきたい」。


伊藤彰浩◎同志社大学経済学部卒業後、東京の酒類の専門商社に就職。2006年に家業である伊藤農園に入社。3代目である父が開発したみかんジュースのリブランディングに取り組む。現在では海外にも進出し、EU諸国を中心に世界32カ国の高級百貨店やスーパーで扱われている。23年11月に同社代表取締役社長に就任した。

文=堤 美佳子 写真=佐々木 康

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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