食&酒

2024.03.13 13:15

多国籍タウンで大学生たちが企画運営した食フェス川口エスニックフード祭り

稲垣 伸寿
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「平成18年(2006年)、国際交流、国際協力に次ぐ第三の柱としての『多文化共生』という考え方を(国が)打ち出した」こと、さらには「平成24年(2012)年からは住民基本台帳法と入管法の改正により」「国籍や民族の異なる人々が互いの文化的違いを認め合い、対等な関係で共生していく、いわゆる『多文化共生』の考え方は、川口の地域社会づくりにとって大変重要」と、当時の川口市長は同指針の「はじめに」で述べている。

さらに、2023年に策定された「第2次川口市多文化共生指針 改訂版」では、現在の川口市長による次のような現状認識の更新が行われている。

そのなかでは「近年では、外国人住民の国籍が多様化していることに加え、永住者、日本人の配偶者、技術、留学、技能実習など、在留目的もさまざまであり、行政には多様化するニーズへの対応が求められています。

このような状況を踏まえ、私は、外国人住民が地域で生活することが、ごく当たり前となり、外国人住民も地域社会でともに活躍できる担い手として、その多様性を活かした魅力あるまちづくりに参画してもらうという視点をこれまで以上に重視」するという。

実は、筆者が「川口エスニックフード祭り」を企画・運営した八重樫さんたちの活動に共感したのには理由がある。これまで筆者自身が、中国語圏の人たちが営む「ガチ中華」の発掘とその「見える化」に勤しんできたからだ。

現在大学2年の彼は、若い頃、長く外国で暮らしていた父親の影響もあって海外に何度も旅に出た。その体験から、地元川口が日本でもユニークな多国籍タウンであることに、あらためて気がついたという。

「川口は異国体験の穴場じゃないか。これまでネガティブに語られたことをポジティブに転換できないか」

そう考えた彼は「異文化交流のハードルの高さを突破するには、食を通じて仲良くなるのがわかりやすい」とエスニック料理を題材にした食フェスを思いついたのだそうだ。

クルド人女性との交流がきっかけに

八重樫さんは今回のフェスを企画した動機について次のようなエピソードも披露した。

彼には、小中学生時代の同級生にクルド人がいたそうだ。その彼女に、昨年夏、5年ぶりに会ったのだという。その出会いは偶然で、川口から2駅先の十条にあるクルド料理レストラン「メソポタミア」を訪ねると、そこで彼女がアルバイトをしていたのだ。

その頃、川口では地域の病院に100人近くのクルド人が集結する騒動があったのをご存知の人もいるだろう。八重樫さんは「なにかぼくにできることはないか」と彼女に聞いたそうだ。現在は大学で看護師になる勉強をしている彼女と話しているうちに、「政治的な問題も含め、自分にできることは何もない」と彼は悟り、青年らしい正義感からすぐにサークル有志とトルコへ旅立っている。現地のクルド人の姿を知るためだ。

彼は筆者にそのとき現地で見たクルド人の現状を語ってくれた。こうした海外での見聞もそうだが、ミレニアムの前後に生まれた彼らは、この国で進行する多文化社会で育った第一世代といってもいい。それが今回のフェスにつながったのだと思う。
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文・写真=中村正人

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