経済・社会

2024.03.03 13:30

純粋経験、ストリートメディカル、政策VC……8つのキーワードから読み解く次の時代

Forbes JAPAN編集部
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「クリエイター大移動」の時代がやってくる─ 中山淳雄


ここ数年、北米を中心に世界規模で日本発クリエイターへのリスペクトとコンテンツへの興味が過去最大級に高まっている。今後もクリエイターたちの越境はどんどん進み、直接海外の大手企業とディールを結ぶ時代がやってくるだろう。いわば、「職人(クリエイター)大移動時代」の到来だ。

世界を席巻したNFTブームも、実は日本のコンテンツの影響を色濃く受けている。2018年に世界で初めてリリースされたブロックチェーン・ゲーム「Axie Infinity」」は、「ポケモン」と「たまごっち」にインスパイアされた東海岸のアジア系アメリカ人クリエイターによって生み出されたものだ(その合計取引額はなんと40億ドル!)。

そこから始まり、「美少女戦士セーラームーン」など1980〜90年代の少女アニメをオマージュしたNFTアートプロジェクト「新星ギャルバース」や、日本の侍・忍者をモチーフにしたアニメ調のNFTシリーズ「Azuki」(運営するChiru Labsの顧問には元サンリオの海外担当役員・鳩山玲人氏も就任)など、NFT業界のトッププロジェクトが続々と生まれ、人気を牽引している。

音楽分野での越境にもかつてない波が起きている。2020年にリリースされた藤井風の「死ぬのがいいわ」は、日本語で歌われている楽曲にもかかわらず、公開1.5カ月の時点で、YouTubeで1000万回以上も再生されており、その半数近くが海外の視聴者だ。多言語に対応した2カ月後には海外視聴が7割にもなり、そのままインドやアメリカのSpotifyトップチャート入りを果たした。

さらに21年にデビューしたimaseも、22年にリリースした「Night Dancer」が世界中でバズり、日本の楽曲として初めて韓国の音楽配信サブスク最大手「Melon」のトップ20に入った。

実はこうした動きの背景には、K-POPアーティストやそのファンたちの影響があるという。BTSのSUGAやJUNG KOOKなどがTikTokで「歌ってみた」「踊ってみた」として、彼らの曲を取り上げたことで話題に。その人気は東南アジアからインド、東欧、欧州へと広がり、米国に上陸したのだという(その過程は「徒然研究室」が詳しく分析している)。

YOASOBIやXG、新しい学校のリーダーズなど、日本以上に海外で聞かれるアーティストが続々と出てきたのが、ここ3年ほどの傾向だ。

VTuberの海外浸透比率もかなりの衝撃だった。コロナ禍に彗星のごとく現れた「にじさんじ」を運営するANYCOLORと女性VTuberグループ「hololive(ホロライブ)」などを生んだCOVERはそれぞれ22、23年春に上場。時価総額は2000〜3000億円と、TVキー局と並ぶほど高く評価されている。

その理由は200億円超の売り上げにおける3割程度が海外であること、そして2社ともに英語ネイティブのVTuberを続々と誕生させ、アジアを中心に北米でも多くのファンの心をつかんでいるからだ。

消費額が国内と海外で1.5兆円ずつと快進撃中のアニメ分野は言うに及ばず、ゲームにおいても「エルデンリング」「モンスターハンター」など1000万本超のヒット作で、海外売り上げ比率が7〜8割を占めるタイトルが生まれている。日本の漫画は今や米国で1000億円市場になっている。

いまだかつてないほどの勢いで日本のコンテンツが“外に出ていっている”状況が顕著だといえる。ただ、その人気を加速させたのは、これまでのような日本企業によるマスメディアを通じた販促展開によってではなく、ファンダムやSNS、同じクリエイター同士の連携によって広がっているという点が新しい。

実は日本のアニメやゲーム、J-POPと組みたいという世界のトップアーティストは引きも切らない。ポーランド発のゲーム「サイバーパンク2077」を日本のアニメ制作会社のトリガーがアニメ化した作品は、Netflixの世界38カ国でトップ10入り。

NFLのトップチーム「LA Chargers」はシーズン日程をアニメで発表しており、アスリートたちは『NARUTO』『チェンソーマン』などを思わせる日本アニメのパロディにアニメ絵で登場している。「King of YouTube」と称され、世界6位、1.1億人のフォロワー数を誇るスウェーデンYouTuberのPewDiePie(ピューディパイ)は、22年京都に移住したという。

つなぐ力さえあれば、ピンのクリエイターがハリウッドやK-POPアーティストと仕事をすることも可能な時代だ。アニメ会社アーチ代表の平澤直氏は、キッズ向け動画を配信する米国のトップYouTuber「Ryan‘s World」がX(旧Twitter)で「アニメつくりたい」とつぶやいたのを目ざとく見つけてメッセージを送り、彼らの忍者アニメを直接受注したという。

そのアニメを制作したりょーちも氏も、フランスのアヌシーという町の街頭でプロジェクターをまわし、「アニメ・ライブドローイング」を実演。フランスのアニメ・映像関係者と知り合い、仕事に発展させた。

英語も話せない日本人クリエイターが腕一本と職人魂で、海外の大手企業とビックディールを結ぶ、なんて荒唐無稽に思われるだろう。しかし、今ならそれができるかもしれない。それほどに、「日本人は良いモノをつくる」ということが世界共通認識になっている。「越境する日本人クリエイター」たちの活躍が楽しみだ。


中山淳雄◎エンタメ社会学者。東京大学大学院修了後、リクルートなどを経て、ブシロードでIPプロジェクトの推進やアニメ・ゲーム・スポーツの海外展開を担当。現在はRe entertainment代表として、コンテンツの海外展開をライフワークとする。

(文=中山淳雄)

イラストレーション=ローリエ・ローリット

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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