地球の負担減らす「モア・フロム・レス」「善きテクノロジー史」を導く次の一手

アンドリュー・マカフィー(イラストレーション=ベルンド・シッファーデッカー、photo by Evgenia Eliseeva)

Forbes JAPAN2月号は、「『地球の希望』総予測」特集。戦争、気候変動、インフレなど、世界を揺るがすさまざまな事象が起きる「危機と混迷の時代」。2024年の世界と日本の経済はどうなるのか? 世界で活躍する96賢人に「今話したいキーワード」と未来の希望について聞いた。

生成AI登場の話題も含め、テクノロジーの進化には脅威論、期待論が入り混じる。人間とテクノロジーの理想的な関係は──。

米英では新刊『The Geek Way』も話題のアンドリュー・マカフィーに話を聞いた。



「テクノロジーの進歩が、経済成長と資源消費量のデカップリング(分離)を推し進める」

こう断言するのは、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院主任研究員のアンドリュー・マカフィーだ。『MORE from LESS(モア・フロム・レス) 資本主義は脱物質化する』(日本経済新聞出版、小川敏子・訳)の著者でもあるマカフィーによれば、「コンピュータ革命」という火に、資本主義における「コスト削減への強い動機」という油が注がれ、世界の脱物質化が始まった。

2023年11月には新刊『The Geek Way: The Radical Mindset that Drives Extraordinary Results』(未邦訳、仮題『ギーク・ウェー:ずば抜けた結果を生む急進的思考』)も出版したマカフィーに、テクノロジーや脱物質化について聞いた。

──米国と英国では、経済が成長する一方で、資本主義とテクノロジーの進歩が「脱物質化」を推し進めているそうですね。工業化時代に資源消費増の元凶だった「資本主義」と「テクノロジーの進歩」が、なぜ脱物質化の推進役に転じたのですか。

アンドリュー・マカフィー(以下、マカフィー消費者は、分子から成る物質そのものを求めているわけではないからだ。エンターテインメントや旅行など、欲求を満たしたいだけだ。その望みさえかなえば、人々は資源消費量の減少など気にしない。

興味深いのは、先進国の企業が、コスト削減のために資源消費量を減らしながら消費者の欲求を満たす方法を編み出したことだ。私たちは、もはやCDなどを使わず、デジタルでエンターテインメントを楽しむ。 オンラインショッピングの梱包用段ボール箱は10年前に比べ、薄く軽くなった。

『MORE from LESS(モア・フロム・レス)』で伝えたかったのは、資本主義下の熾烈な競争とテクノロジーの進歩により、私たちは、ついに地球への負担を減らす方向に向かい始めたという事実だ。

例えば、「農業大国」米国では年々、農作物収穫高が増えているが、かんがいに使う水や肥料などは減っている。「モア・フロム・レス(より少ない量から、より多くを得ること)」の好例であり、環境と経済成長の「デカップリング(分離)現象」だ。

市場の競争が熾烈で、利益が保証されていないと、企業には、顧客との関係に影響が出ない範囲で、あらゆる機会を見つけてコスト削減を図ろうという強い動機が働く。そして、現代のテクノロジーが企業に材料費の削減という機会を与えた。飲料用アルミニウム缶も、同様の理由で薄く軽くなった。
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インタビュー =肥田美佐子

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年2月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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