AI

2024.02.05 14:15

各国識者が考える「私がAI時代に取るアプローチ」

井関 庸介

ガルリ・カスパロフ

「私たちは時代の転換点に到達しています。今までは(働きぶりへの)最高の賛辞のひとつに、『彼、彼女はコンピュータのように、機械のように働く』というものがありました。私たちはその考えから脱却しなければなりません。もしあなたが機械のように働いているなら、それは非常に悪い兆候だからです」

Jason Mendez / Getty Images

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AIは、私たちの仕事にどのような影響を与えるのだろうか――。2021年5月にForbes JAPANの取材に応じたチェスの世界王者ガルリ・カスパロフは「おそらく機械は多くの仕事を奪うのではないか」という見解を示しつつ、「ただ、それは新たな競争を促すことを意味しており、進化が止まっている領域をあぶり出す最良の方法でもある」と語った。そして、「私たちが考えるべきなのは、『そもそも人間の真の創造性を発揮できる仕事とは何か?』という問いだ」と強調する。

人類史上、初めてコンピュータと対峙したカスパロフの言葉だけに重い。彼は現役王者だった1996年〜97年、IBMが開発したチェス専用プログラム「Deep Blue(ディープ・ブルー)」の挑戦を受けた経験をもつ。だが通算では互角の戦いをしながら、IBMの計画中止を受け、敗れたまま再戦の機会を得ることなく、初めてコンピュータに“負けた”人間という十字架を背負わされてしまった。

ところが、カスパロフはまだコンピュータが一般に普及していなかった時代からチェスの練習で専用ソフトウェアを使うほどテクノロジーに理解がある。身をもって新しいテクノロジーの長短を知っているからこそ、「突然、私たちの私的な空間に踏み込むようなテクノロジーが現れたから人々は心配している」と、AIに不安を覚える人たちに理解を示す。その一方で、「この新しい革命は、人間の最も価値ある資質とは何かを理解するのに役立つ」と語る。もっとも、その際に「人工知能(AI)」という呼び方だからといって、「人間の知性」と同一視するのは誤りだとも指摘する。

「『クリエイティビティ(創造性)』という言葉を機械に当てはめるべきではありません。なぜなら、創造性は人間特有の資質だからです。創造性とは、新しいこと、誰もやったことのないことをすることです。そして、その結果どうなるかは誰にもわからない。成功することもあれば、失敗することもあります。その点、機械に失敗や誤りは存在しません。創造性という概念がコンピュータに当てはまらないのはそのためです。コンピュータは常にパターンや価値観を探し出し、それを認識しようとしている。だから機械は“失敗”という概念を受け入れないのです。

私たち人間は、まだ自分の真の価値を理解できていません。そして、AIは私たちが想像すらしなかったような夢の実現を手助けしてくれるのではないでしょうか。私は楽観的です。決して課題に目をつぶっているわけではありません。当然、課題はあるでしょう。でも、それもまた人生です」(カスパロフ)
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文 = 井関庸介

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