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2024.02.05 14:15

各国識者が考える「私がAI時代に取るアプローチ」

井関 庸介

アムノン・シャシュア

David Becker / Getty Images

David Becker / Getty Images

「歴史を振り返ればわかるように、技術は良いことにも、悪いことにも使われています。それでも社会は最終的には、技術的進化を善のために利用してきました。ただ、AIはもっと複雑です。悪用されるリスクがより高い。怖いのは、悪い結果になるかどうかが最後までわからないということです」

2021年11月にForbes JAPANの取材に応じたエルサレム・ヘブライ大学のアムノン・シャシュア教授は、「AIの進歩は人類の暮らしをより良くし、より多くの問題を解決するために使われている。そして、その可能性は無限大だ」と楽観的ながらも、上記の言葉のように慎重な姿勢も見せる。そんなシャシュアは1人で4社、それもそれぞれに異なる領域のAI企業を立ち上げてきた経歴の持ち主だ。

大規模言語モデル(LLM)が世界を席巻していることもあり、今は彼が共同創業した自然言語処理(NLP)開発企業「AI21 Labs」が注目を集めているが、自動運転および運転支援テクノロジー開発企業「Mobileye(モービルアイ)」や、人工視覚デバイス開発企業「OrCam Technologies(オーカムテクノロジーズ)」の共同創業者と言ったほうがピンと来る読者諸賢が多いかもしれない。また彼は「今のフィンテックは扱っている領域が狭い。AIを使えばもっとできる」と語り、デジタル銀行の「ONE ZERO(ワン・ゼロ)」も立ち上げている。

シャシュアが慎重な姿勢を崩さないのは、テクノロジーにはその使われかたの予測が難しい一面があるからだ。その一例が「ソーシャルメディア」である。十数年前にソーシャルメディアが使われ始めた頃は、人と人をリアルタイムで直接つなぐポジティブな面に光が当てられた。2011年に起きた中東・北アフリカ地域の民主化運動「アラブの春」や、セクハラや性暴力を告発する「Me Too運動」という社会的に意義深い運動にもつながっている。その一方で、フェイクニュースやエコーチェンバー現象(価値観の近い人々の間で特定の意見や思想が増幅する現象)の台頭も招いている。

ソーシャルメディアの運営企業も稼ぐ必要がある。そして、人は「炎上」などのネガティブな要素に振り回されやすい。ネガティブな要素があれば、利用者はプラットフォームに留まる――。アルゴリズムがそういう結論に達した結果、ソーシャルメディアは本来の目的とは異なるかたちで“進化”したのだ。シャシュアは、「AIを悪用する意図がなくても、結果としてそのように“進化”してしまう可能性もある。これは人類にとって大きな課題だ」と指摘する。そして、こう話す。

「エキサイティングな反面、危険もあります。AIの利便性を享受しつつ、それが悪いものに変わるリスクを最小限に抑え、同時に技術の進歩を止めないためにはどうするべきか――。しかし、どのように規制すればいいか、当局もまだ充分な知識をもっていません。その意味では、AIは今までのどの技術革命よりも多くの課題を抱えているのです」(シャシュア)
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文 = 井関庸介

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