経済・社会

2024.01.27 10:30

ロシアは本当にNATOを攻撃するのか、元陸将が読む高度な心理戦

縄田 陽介
松村氏によれば、特に戦闘正面での榴弾砲(曲射砲)の弾丸不足が深刻だという。現在、戦闘正面ではロシアが1日1万発以上を確保しているのに対し、ウクライナは1日5千発程度にとどまっているという未確認情報もあるという。砲身が焼き付かない範囲での最大発射速度は1分に2発程度で、5分間で10発を発射する計算だ。松村氏は「実際に戦闘が起きている地域に500門の榴弾砲が展開していると仮定した場合、1日に5千発しかなければ、各砲門あたり1日5分間しか射撃できない計算になります」と指摘する。榴弾砲は、地雷原を処理したり、味方が敵陣地に突入したりする際に、敵軍を塹壕にくぎ付けにするためなどに使われる。陣地を突破して進んでいくために不可欠なため、「補給さえ可能なら、突破正面では各砲門あたり1日100発近く欲しいところ」(松村氏)だという。

ロシアは現在、領土的野心を隠さないウクライナ東部4州のうち、ほぼ全域を占領できたのはルハンスク州だけにとどまっている。松村氏はロシアの思惑について「州の全域を併合するとは明言していないザポリージャとヘルソン両州はともかく、少なくとも親ロ派が2014年以来『ドネツク人民共和国』の領域だと主張してきたドネツク州全域を占領しない限り、停戦には応じられないでしょう」と語る。NATO内に「ロシアとの全面戦争」を懸念する声が広がれば、NATOの防衛力強化を求める声が上がるだろうが、その一方で、ウクライナへの支援に及び腰になる国が、ハンガリーのほかにも出てくるかもしれない。そうなれば、ドネツク州を占領するために必死になっているロシアにとって好都合な結果が生まれる。

松村氏は、プーチン大統領はさらにウクライナの「非ナチス化・非武装化」も掲げているため、仮に停戦が実現しても、ゼレンスキー政権の打倒とウクライナのNATO加盟阻止に全力を挙げるだろうとも予測する。ただ、「ロシアがNATOに対する攻撃の構想を持っているとは思えません」とも語る。「プーチン大統領はNATOと戦争になれば、ロシアは勝てないと思っているはずです。そのため、ウクライナ侵攻へのNATOの介入を防ごうと必死になって情報戦などを展開しているのです」という。「最悪の事態に備える必要はありますが、粛々と準備すれば良いと思います。声高に、ロシアが攻めてくると叫び続けると、逆にロシアが仕掛ける情報戦の思うつぼになりかねません」

現在のNATOとロシアによるやり取りは、台湾を巡って中国と相対する日本や米国にとっても参考になるだろう。

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文=牧野愛博

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