ビジネス

2023.12.21

企業が今知るべき「謝罪の経済学」とは

ベンジャミン・ホー|バッサーカレッジ教授(Mike Okoniewski/Vassar College)

なぜ、企業や経営者が「正しい謝罪」のあり方を知る必要があるのか。経済学という観点から「謝罪」と「信頼」を読み解いた経済学者に聞いた。


日本で企業のスキャンダルが相次ぐなか、「謝罪」への関心が高まっている。『信頼の経済学:人類の繁栄を支えるメカニズム』(慶應義塾大学出版会、庭田よう子訳)を著したベンジャミン・ホー米バッサーカレッジ教授が謝罪の極意を語る。

──なぜ、「謝罪の経済学」を研究しようと考えたのですか。

ベンジャミン・ホー(以下、ホー話は22年前にさかのぼるが、スタンフォード大学大学院で経済学の博士論文を書く際、誰も研究していない「謝罪」をテーマに選んだ。
 
当時、クリントン大統領が性的スキャンダルのモニカ・ルインスキー事件で謝らないことに人々が憤慨している、という事実にも興味を引かれた。米社会心理学者のラリッサ・ティーデンスが大統領の弾劾審問直後に手がけた実験(2001年)にも触発された。
 
彼女は同大統領の宣誓証言を録画して編集し、2種類のビデオを学生に見せた。片方は彼が謝っているように見え、もう一方は腹を立てているように見えるものだった。実験からわかったのは、「謝罪には効果があるが、代償を伴う」ということだった。
 
というのも、謝っているように見えるビデオを見た学生らは大統領にもっと好感を抱き、信頼度も上がったが、謝らずに怒っているように見えるビデオを見た学生らは、クリントンを「有能な大統領」だと感じたからだ。つまり、謝罪は「温かみ」と「有能さ」のトレードオフ(二律背反)なのだ。

謝れば人間味は増すが、有能さが犠牲になる。企業が謝罪に難渋するのは、そのためだ。謝罪と株価に関する私の共同研究(学術誌『経済行動・組織ジャーナル』2023年1月号)では、企業が非を認めて責任を取るような本格的な謝罪を行うと、長期的な株価下落を招きやすいことがわかった。市場は、企業が謝罪で「無能さ」を認めることを嫌う。
 
私は、いつも企業にこう助言している。「謝罪には効果があるが、株主は嫌がる。謝罪に伴う経済的代償を覚悟すべきだ」と。

──なぜ、謝罪の経済学は重要なのですか。

ホー:企業が「信頼」に依拠していることが十分に認識されていないからだ。人々がどの製品を買うかという選択も従業員の精勤も、企業や雇用主との信頼にかかっている。その関係が壊れたとき、謝罪がものを言う。経営者が謝罪について学ぶことは重要だ。

評判の低下や経済的コストなど、代償を伴うだけに企業は謝罪を嫌うが、代償を払ってまで行うからこそ、謝罪は有効なのだ。

──お金の節約にもなるそうですね。

ホー:謝罪で節約できる可能性もあるが、多大な経済的コストを伴う恐れもある。だからこそ、熟考し、うまくやる必要がある。

例えば、米ライドシェア大手ウーバーテクノロジーズに協力を仰いで行った共同調査では、謝罪が役立つことがわかった。配車が遅れた利用者らに謝罪メールとともに5ドルのクーポンを配ったところ、その後、利用者らは、5ドルを上回るお金を同社に落とした。ウーバーは利用者との関係に5ドルを投資したことで、それ以上の効果を得たわけだ。
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インタビュー=肥田美佐子

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年12月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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