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2023.11.10 15:00

「出禁」の人間が大当たりを当てたとき、カジノに支払う義務はあるのか? 

稲垣 伸寿
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かつてのマフィアが牛耳る鉄火場で後ろめたさを抱えながら遊ぶ違法行為から脱却して、健全な大人の遊びとしての地位を得たカジノだが、それでも本当に公平、公正に行われているかについての消費者の心理は微妙だ。

常連への忖度や、イカサマ行為のお目こぼし、あるいは胴元への不正な利益誘導など、こうしたものが排除されてこそ、一般消費者は自分のゲームが楽しいレジャーとなるという意識が強く、当然、その楽しみの向かうところはジャックポットだ。

今回、ネバダ州賭博管理委員会は消費者保護の姿勢を前面に出すことで、不法侵入罪とは切り離された、純粋なゲームそのものの公平性にフォーカスし、「微妙な消費者心理」に寄り添うことで、ネバダ州のカジノの魅力を保とうとした。

日本のカジノに真っ先に飛んでくるのは?

こういったカジノに関わるライセンス付与は州単位の管理で行われている。そのため、業界のなかでどの州に進出するかは、このネバダ州賭博管理委員会の裁定のように、どれだけ消費者に支持され、信頼されるカジノ行政であるかというところに大きなポイントがある。

ネバダ州賭博管理委員会は、上部組織であるカジノゲーミングコミッション(たいてい政治家で構成される)が大枠の指針を決めると、その範囲で具体的なライセンス業務や紛争に対して判断を下す。

かつてハードロックカフェホテル・カジノが、ビルボード看板を出したときに、そのキャッチフレーズが「猥褻」を想起させるとして、それだけで数億円の罰金を科したこともあった。そのことからもわかるように、カジノの「健全」を保っているのは、ネバダ州賭博管理委員会の握力だと言っていい。

ちなみにネバダ州賭博管理委員会のチェアマンは知事の任命人事で、たいてい弁護士が任命されることが多い。オバマ大統領の生みの親、民主党のボスだったハリー・リード上院議員もかつてはネバダ州賭博管理委員会のチェアマンだった。

リード上院議員がマフィアにラインセンスを与えることを拒否したことで命を狙われたというエピソードは有名で、このマフィア、フランク・ローゼンタールを演じたロバート・デニーロの映画「カジノ」でも名場面の1つだ。

今回の裁定は、ネバダ州賭博管理委員会のなかでも2対1で割れ、「健全」をめぐって微妙な判断となったが、業界ではこの判断を支持する声がほとんどである。

「カジノはどこで遊んでも同じ」ではないし、カジノロケーションにもブランドがある。それはまさにネバダ州賭博管理委員会の真っ当な仕事であると言ってもいい。

将来、日本に最初のカジノが立ち上ったとき、アメリカのカジノオペレーターがオペレーションを委託されることはほぼ確実である。

万が一、そのカジノ建設や運営をめぐって、どこかの政治家が受託収賄に手を染めたりすると(秋元司代議士による汚職事件はまだ記憶に新しい)、真っ先に日本に飛んでくるのは、今回も「公平性」を貫いたネバダ州賭博管理委員会の調査員だと言われている。

連載:ラスベガス発 U.S.A.スプリット通信
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文=長野慶太

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