「患者の望む終末期ケア」の確立を自らの最期まで取り組んだ医師

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米ワシントン州シアトルにあるワシントン大学医学部の著名な教授で、集中治療専門医だったランディ・カーティスは、2021年に筋萎縮性側索硬化症(ALS)と診断され、2023年2月にこの世を去った。

カーティスは研究熱心で、亡くなった後も新しい論文が次々と発表されている。2023年5月にも、学術誌『JAMA Network Open』に論文が掲載された。この論文は、多くの患者が自ら望んだかたちで死を迎えられるようにする方法を示唆するものだ。

自分の望みとは違う場所やかたちで死を迎える人は多い。人工呼吸器にはつながれたくないと思っていたのに、集中治療室で、機械に頼って息をしながら最後の日々を過ごす患者もいる。本人の意思に反して、心臓が停止したあとも、徹底的な心肺蘇生術が施されるケースもある。

臨床医が患者と(つまりは「一般の人」と)、終末期ケアについての希望を話し合っていれば、そうした望まぬ事態の多くは回避できるかもしれない。しかし残念ながら、「ケアのゴール」について、患者と話し合っている医師は少ない。それに、たとえ医師がこうした話し合いをしようと思っても、たいていは別の問題が浮上する。終末期ケアに関する患者の望みを聞こうと思っても、どうやって切り出し、話し合いを進めればいいのかわからないのだ。

カーティスと同僚の研究者たちは、JAMAで論文が発表される前から、この2つの問題を解決するべく、大事な仕事を成し遂げていた。終末期医療コーディネーションの手引き「ジャンプスタートガイド」を作成していたのだ。

このガイドでは、医師が患者とよりスムーズに意思疎通ができるよう考案された、シンプルな表現が紹介されている。例えば「心肺が停止したときの方針を話し合いましょう」などと切り出すのは気まずい。ガイドでは、その代わりに、もっと優しく言いやすい表現を提案している(例えば「できる限り患者本人の希望に沿ったケアを提供したいと考えていますので、あなたにとって大切なことは何かを教えていただきたいのですが、よろしいでしょうか」)。

さらには、無作為化臨床試験を実施した結果、ガイドを使った介入によって、ケアのゴールに関する話し合いが大幅に増加したことも示されている。
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翻訳=遠藤康子/ガリレオ

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