暮らし

2023.08.22 17:00

「ゼロで死ぬ」ベストセラー本著者が語る、人生を充足させるためのお金の使い方

Forbes JAPAN編集部

バケーションには終わりが来る

──書籍のなかで、死ぬまでにお金を使い切らないと、そのお金を稼ぐために働いた時間が無駄になると書いていますね。

パーキンス:仕事でお金を稼いでも、自分が満たされることにそれを使うという「ご褒美」を得なければ、タダ働きをしたのと同じだ。稼いだお金は、「ご褒美」を得るためのツールにすぎない。ネズミが、チーズを食べるという「ご褒美」なしにホイール(回し車)で走り続けるように、人も、ただ働くことが習慣化してしまう。

仕事の報酬は、それを稼ぐために費やした「ライフエネルギー」の量を表している。人は、時間やエネルギーと引き換えにお金を得る。人生を充実させることにそのお金を使わない限り、仕事に費やしたライフエネルギーが無駄になる。

──子どもなど、「誰かに金を与えるのなら、早いほうがいい。死ぬまで待つ必要はない」と書いていますね。

パーキンス:親は死後、子どもに遺産を相続させるのではなく、わが子が25〜35歳までに財産を与えるのがベストだ。そうすれば、子どもは若いうちに財産を経験に投資し、「ご褒美」を手にできる。

贈与は、子どもが適正な年齢のときに行うと、より強力な効果を発揮する。子どもには早めに財産を贈与して投資利益率(ROI)と人生の充足感を最大化し、ゼロで死ぬというのが私の考えだ。

私自身、娘2人はまだ若いため、信託口座を開設し、継子(息子)には大半の財産を渡した。額が多すぎると子どもを甘やかすことになる、という懸念も聞く。私も娘たちへの額については思案するが、肝心なのは贈与のタイミングだ。

──「明日死ぬことを知っていたら、あなたは今日、どんな行動を取るだろうか?」「2日後の場合はどうか?」「365日後の場合は?」と書いていますね。

パーキンス:「人生の残り時間」を意識することは実に重要だ。例えば、旅に出て最終日が近づくと切迫感に駆られ、回る場所をより慎重に選ぶようになる。「もう終わりか! 早く回らなきゃ」と。

人生も同じだ。人は永遠に生きるかのごとく毎日を送りがちだが、人生という「地球上でのバケーション」には必ず終わりが来る。その日が近いことを知ると切迫感に駆られ、一つひとつの経験に、より大きな充足感を抱くようになる。

「残り時間」を意識すると、物事の優先順位が見えてくる。喜びを先送りしていると、将来、「無為に過ごしてしまった!」と後悔することになるだろう。

──今後の人生で投資したいことは?

パーキンス:「タイムバケット」、つまり、年代ごとに設定した「やりたいことのリスト」に従えば、(50代は)健康への投資だ。健康であれば、「地球上でのバケーション」も延び、楽しい時間が送れる。旅行や慈善活動もリストに入っている。

人生の充足感を調べる際に便利なのが、「重要業績評価指標」(KPI)だ。企業がKPIを基準に目標達成度を測るように、人生にもKPIを応用すべきだ。私の場合、移動距離やホテル代を見直すことで、十分に旅をしているかどうかがわかる。

──日本の若者にアドバイスを。

パーキンス:日本には健康な高齢者が多い。年を取っても働けるのだから貯金をしすぎないよう、老後に必要な最小限の生活費を試算し、必要な貯蓄額を割り出そう。

大切なのは、資金の枯渇を案ずることではなく、「生きるべき人生を生きなかった」と後悔しないようにすることだ。人生のチャンスを逃すな。ただ貯めるだけの「生ける屍」になってはいけない。


ビル・パーキンス◎コンサルティング企業BrisaMaxホールディングスCEO。ベンチャー・キャピタル、ヘッジファンドマネジャーとして成功を収める。その後、映画業界に進出し、監督・俳優として映画製作も行う。ポーカーの名手としても有名。初めての著書である『DIE WITH ZERO』が大きな話題に。2020年9月に刊行された日本版もベストセラーとなった。

インタビュー =肥田美佐子 イラストレーション=オリアナ・フェンウィック

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年8月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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