暗号資産

2023.07.26 07:30

スイス「クリプト・バレー」の暗号資産エコシステムに世界の熱視線

坂元 耕二
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スイスがクリプト・スタートアップの温床となる理由

Luna Huerta氏は、スイスがクリプト・スタートアップの温床となっている理由として、次の7つの要因を語った。

1:優れた規制と法的基盤

スイスでは、ブロックチェーン技術分野の中核となる分散化・開放性・透明性という原則に対して、個人、民間企業、政治家、公的機関が妥協せずに協力し合うことで、世界でもいち早くブロックチェーン上で発行されたデジタル証券を既存の証券と同様に扱うDLT法を施行しました。この法律は、ブロックチェーンを基盤とした市場インフラの認可を可能にし、世界中のクリプト、ブロックチェーン、Web3業界のパイオニアを魅了するとともに、世界的に最も成熟したブロックチェーン・ハブとしての地位を確固たるものにしました。グローバルなの規制環境を形成する上で、スイスは極めて重要な役割を担っているのです。 

2:初期のガバナンスの監視

2017年からの「ICOブーム」を受け、18年初頭にスイス金融市場監督局 (FINMA)は、トークンのガイダンスと分類を提供し、現行法の下で何が許され、何が禁止されているかを明確にしました。それにより、法務アドバイザー、プロバイダー、ブローカー、金融仲介者、証券補完機関、アドバイザーが活躍できるようになりました。

3:高度な人材

スイスには、世界トップクラスの大学や研究機関が複数あります。クリプト・スタートアップにとって、高度な教育を受けた人材のプールが数多くあることが、変化や競争の激しいこの業界で成功するためには不可欠なことです。 

クリプト・バレーのあるスイス ツーク州

クリプト・バレーのあるスイス ツーク州 photo by CV Labs

4:クリプト特化の支援機関

クリプト・スタートアップ等に特化したアクセラレーターやベンチャーキャピタル、支援体制が複数存在していることも特徴として挙げられます。彼らは資金提供や多くのサポートをすることで、業界全体の成長とクリプト・スタートアップの成功を支援しています。例えば、政府が支援する独立機関であるThe Swiss Blockchain FederationやCrypto Valley Association、Greater Zurich Area Ltd. を含む多くの民間公共団体、グレーター・チューリッヒ・エリアの公式投資促進機関、CV Labs、CV VCなどがあります。

5:魅力的な税制

チューリッヒ広域圏は、欧州の他の地域と比較して魅力的な法人税および個人性を提供しています。スイスは税制優遇措置が多く、連邦、州、市町村を合わせた法人税率の実効税率は「12〜24%」程度です。

6:銀行のインフラ整備

2019年に世界で初めて、デジタル資産と暗号通貨企業に特化したSygnumとSEBAに、スイス金融市場監督局(FINMA)がデジタル・バンキングのライセンスを与えました。また、クリプト・バレーには、クリプトに親和的なBank Frick、Incore、Maerki Maumann、Swissquote、BIL、Arab Bank(Switzerland)などの銀行もあります。さらに、132年の歴史を持つJulius Baer Groupや、スイス政府が全額出資する金融サービス会社のPostFinanceなど、スイスの伝統的な銀行の多くが暗号資産やデジタル資産サービスを提供しています。

7:スイスの価値観

精密さ、信頼、民主主義、決意といった価値観は、スイスのクリプトバレーで大きく表れています。スイスはそのDNAに地方分権が根付いていますし、中立を国の政策に掲げていることから、様々な国と交流し、相互連携してきた歴史があります。この連携の良さは国家間のみでなく、政府、政治、産業、法律事務所、学界などが相互に信頼し、協力を促進する環境があります。この緊密なネットワークにより、スイスは世界的な分散型システムの先進的な事例となっています。近年の世界的なマクロ経済的課題にもかかわらず、クリプト・バレーは安定しています。企業はすべてがスタートアップというわけではなく、多くはすでに確立している企業です。重要なのは、スイスを拠点に、グローバルな視点を持った企業であることで、ここにはユニコーンやネクストユニコーンなどが生まれています。
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文=森若幸次郎 / John Kojiro Moriwaka

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