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2023.06.24 17:00

ポップスからジャズへ、大江千里が語る「海外で働くということ」

「なぜなら、日本では僕はシンガーソングライターとして歌って踊って、作詞・作曲をして、映画にも出てと、誰もなし得ないような活動をしたわけです。それは僕の強烈な個性であり、アメリカにそういう人はいません」
 
では、大江がこの先で目指しているのはどんな音楽か。それは、「目が覚めるような“ソーシャルミュージック”としてのジャズ」だという。

ヴィレッジ・ヴァンガードやスモールズといった米名門ジャズクラブにも、聞き込んでいるうちに、つい寝てしまう常連客がいる。それが、演者が突然カントリー・ミュージックの要素が入ったジャズを始めた途端、目を覚まし、やんやの喝采を送るのだ。大江は、そんな風景に何度も出くわしてきた。彼が志向しているのは、文字どおり、ジャズ愛好家が目を覚ますような音楽だ。

「僕がポップ時代に得意としていたパワフルなメロディーと歌詞は、ジャズになっても変わらないと思うんです。ジャズ特有のリズム的チャレンジを多用しながら、メロディはむしろシンプルに、その分コードの色彩が絶妙に変化するー。新たな『Senri Jazz』を開拓しよう、そう考えると、ゴールがぼんやり見えてくる。それはウェイン・ショーターにも、ハービー・ハンコックにも、クインシー・ジョーンズにもできない、僕にしかないものなんです。だから、無我夢中で自分が目指すゴールへ向かって日々がんばるわけです」(大江)
 
大江は5月24日、デビュー40周年の記念アルバムとなる『Class of '88』を発売した (6月30日全世界発売)。「GLORY DAYS」などのポップミュージシャン時代のヒット曲が、ジャズピアニストに転身した彼の手でどう生まれ変わったか、聞いてみてほしい。

音楽も人生も、そのかたちは色々あっていい、そう大江は言う。

「この世には億万とおりの生きかたがあります。その人の見えかた次第で、何度も始めることができるのです」
 

大江千里(おおえ・せんり)◎1960年大阪生まれ。ジャズピアニスト。2012年から米ニューヨークに移って音楽活動をしている。留学と起業の顛末をまとめた『9番目の音を探して 47歳からのニューヨークジャズ留学』『ブルックリンでジャズを耕す 52歳から始めるひとりビジネス』『マンハッタンに陽はまた昇る 60歳から始まる青春グラフィティ』『ブルックリンでソロめし! 美味しい! カンタン! 驚き! の大江屋レシピ46皿のラブ&ピース』(いずれも、KADOKAWA刊)など著書多数。「note」では、エッセイやレシピ、動画のコンテンツを配信中。デビュー40周年の記念アルバムとなる『Class of '88』(PND Records /Sony Music Labels)が好評発売中。

文=井関庸介 写真=大江千里 提供

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