2023.06.25 10:00

別荘型ホテルで味わう「何もしない時間」という新しい贅沢の形

南がそんな発想にたどり着いたのは、海外を回る中で気づいた、欧州やアフリカの人たちと、私たち日本人の旅行における時間の使い方の違いであった。

どうしても日本人は、旅行に行くと色々なスケジュールを詰め込んでしまいがちだ。けれど、彼らは「今日はどうしようか?」とその時その日の気分次第でやりたいことを決めていく。たとえば、本を読んだり、果物を食べたり、夕方まで何もせず、気が向いたらジェラート屋に行ってアイスを食べたりする。それは、いわゆる「旅行」ではなく、「別荘」に行くような時間の使い方だ。そんな「何もしない」時間を提案したい、と南は考えた。

(abrAsus house Fuji 公式写真より)

(abrAsus house Fuji 公式写真より)


だからこそ、都内から90分で行ける距離という場所にもこだわった。日常性の中にあるラグジュアリーな時間。午前中、仕事をして、そこからちょっと足を運んだ先にある豊かなひととき。日常を邪魔することなく、非日常を味わう贅沢。

そして、もう一つ、南がこだわるのは「アフォーダブル(手の届く価格)」だ。富裕層ならばいくらでもリッチな旅や時間を買うことはできるだろう。しかし、普通の人たちが日常の中にあるアニバーサリーなど、プレシャスな時間を頻度高く確立していく。それこそが、南の目指す姿である。

(abrAsus house Fuji 公式写真より)

(abrAsus house Fuji 公式写真より)


南は振り返る。小学校2年生の時に担任に言われた言葉だ。「君たちが大人になる時、週休3日になるだろう」。

当時、世の中が週休1日から2日になったタイミングだった。担任は続けた。「なぜだと思う? 昔はお米をつくるのも、ものすごい時間がかかった。しかし、トラクターができたり、ロボットが工場にできたりして、生産性や効率性が上がった。これからも技術は進んでいくだろう」。だから、南自身もそれを聞き、自分が大人になった時、週休3日になるのは当たり前だと思っていた。

しかし、あれから40年近く経った今、まだ週休2日のままである。

南は思う、「人間の欲はきりがないな」。もっとこうなりたい、もっと便利になりたい、もっといい生活がしたい、もっと向上したい...。しかし、それは人間を本当に幸福にするのだろうか?

(abrAsus house Fuji 公式写真より)

(abrAsus house Fuji 公式写真より)


大切なのは、あるところで、満足をして、感謝して、日々楽しむこと。ここにフォーカスしなければ、一生懸命働き、お金を貯めるだけ貯めてということを繰り返し、なんのために生きているのかよくわからなくなってしまう。これは、かねてから問われているポスト資本主義の姿を模索する動きにも相通ずる。

コロナのパンデミックがあり、これまでの成長だけを重視した世の中からブレイクして気づいた、本当の幸せの姿、社会の形。だから、ここで一回、「もっともっと」という発想を横において、ミニマリストになって、自分の最低限の幸せにきっちり向き合う方がいいのではないか。

そんな思いに触れることができる時間の使い方を、一旦立ち止まってしてみても、悪くないだろう。

文=谷本有香

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