経済・社会

2022.12.20 11:00

防衛費財源を巡る議論、なぜ混乱したのか

縄田 陽介

Photo by David Mareuil/Anadolu Agency via Getty Images

防衛費増額のための増税の議論が15日、決着した。自民党は同日の税制調査会で法人、所得、たばこの計3税に増税する一方、実施時期を2024年以降の適切な時期として、実質的な判断を先送りした。それにしても、岸田文雄内閣の閣僚や党幹部などから増税に反対する声が噴出するなど、混乱した状況に陥った原因はどこにあったのだろうか。

自民党のベテラン議員によれば、今回、増税の結論を出すように旗を振ったのは財務省だった。岸田政権は防衛費の増額について今後5年間にわたる方針としており、当初から来春の統一地方選後に詳細を詰める案が浮上していた。これに対し、財務省は「議論を先送りすれば、増税に向けた推進力が弱まり、結局うやむやにされる」として、強く抵抗したという。財務省には「一度、徹底的に議論をしておけば、万が一、議論が先送りされても、増税への道筋が開ける」という計算もあったという。中曽根康弘内閣の時、売上税が廃案になったものの、竹下登内閣で消費税として結実したことなどが頭にあったようだ。

財務省の後押しで、強行突破を図った政府に対し、自民党は自民党で計算があった。統一地方選だ。自民党は、「統一地方選の前哨戦」とされた、11日投開票の茨城県議選(定数62)で、9議席を減らした。特に、東京や大阪などの大都市圏の地方選挙は、国政の影響を受けやすい。増税を嫌う有権者の心理につけ込んで、早めに「皆様の味方」をアピールしたいのだろう。ついでに、岸田首相の権威も傷つけて、「天下取り」を狙うという計算もあるようだ。

それにしても、世論調査では、反撃能力への支持が過半数を超えている。今回、増税に文句を言っている自民党議員らも、防衛力の強化は不可欠だと言っていたのではないか。北大西洋条約機構(NATO)加盟国は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、改めて国防費の国内総生産(GDP)比2%を掲げたが、冷戦終結までは3%を目標にしていた。ステルス戦闘機や極超音速ミサイルなど、複雑で高度な技術を使う装備も増えている。日本が防衛費の国民総生産(GNP)比1%を決めたのは、三木武夫内閣当時の1976年だ。防衛費の増額は遅すぎたと言うべきで、どう考えても必要不可欠だという結論しか出てこない。同時に、日本の財政破綻が叫ばれて久しい。高齢化社会はますます進行し、福利厚生費を削ることは至難の業だろう。「何でも増税で」という意見にはくみしないが、増税は避けて通れないだろう。
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文=牧野愛博

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