テクノロジー

2022.08.10 10:00

設計士が明かすイスラエルのサイバーセキュリティ・エコシステム

井関 庸介

また、私は2010年に当時のベンヤミン・ネタニヤフ首相による指示のもと、テルアビブ大学のイサク・ベン=イスラエル教授が結成した作業部会「The Cybernetic Initiative(サイバネティック法案)」に70人以上いた専門家の一人として参画しています。これは、イスラエルが国家としてどのようにサイバー脅威に向き合うか、その方針を策定するものでした。そこで、「Israeli National Cyber Bureau(INCB:イスラエル国家サイバー局)」の設立や、サイバー業界のほか、アカデミアに国家予算を投じることを提言しています。

これが一段落したのが2015年でした。軍と政府機関とで計21年も勤めたことに満足したこともあって、民間に移ることにしました。ところが、私が引き受けたEMC(現Dell EMC)のサイバー・ソリューションズ部門のゼネラル・マネジャー職は、国とかかわる役割も負っていたのです。当時、EMCのイスラエル支社で取締役を務めていた知人の招きにより、EMC内にサイバー・ソリューション・グループをイスラエル南部の都市ベエルシェバに立ち上げることになったのです。

井関:2020年にベエルシェバを訪れた際、Dell EMCの巨大コンプレックスを見かけましたが、それが理由なのですね。ネゲヴ砂漠にサイバーセキュリティ都市を作る構想の一環でできたと聞きましたが。

ハレル:そのとおりです。だからこそ、ビルナンバーワンの1階がDell EMCのオフィスなのです。EMCはいわば“保険”として、まだ建設を始めたばかりのそのハイテクパークに、他の数社や大学と一緒に入居しました。私はそれから遅れてEMCに加わったのですが、同社のサイバー支局を手始めに、サイバー・グループの立ち上げにも参画しています。

やがて、ベエルシェバに「The Israeli Cyber Emergency Response Team (IL-CERT:イスラエル・サイバー緊急事態対応チーム)」の国家センターの建設計画と、ハイテクパークの設立が決まると、EMCは、イスラエルの軍事企業ラファエルや、テクノロジー大手IBMと企業連合を組み、入札に参加しました。当時の競合には、エルビット・システムズ / HP / デロイトの企業連合、イスラエル・エアロスペース・インダストリーズ(IAI)/ シスコシステムズ / ロッキード・マーチンの企業連合などがあり、どこも強敵でしたが、長期間にわたる審査の結果、我々が栄えある規格に選出されたのです。その結果、イスラエル政府のCERTセンター建設に携わりました。EMCが専門家やインフラをすぐ近くにそろえていたこともあり、CERTの基本設計概念や戦略を発展させるうえでも合理的な判断でした。

2020年の終わり頃、私はイスラエルのサイバーセキュリティ・コンサルティング企業「Sygnia(シグニア)」に移りました。シグニアは、ベンチャー投資会社「Team8(チーム・エイト)」の一部でしたが、今ではシンガポールの政府系投資大手「Temasek(テマセク)」傘下にあります。私は同社のサイバー防衛担当副社長(SVP)のほか、テルアビブ大学サイバー・センターの最高戦略責任者(CSO)を務めています。アカデミアとも強いつながりをもっており、シンガポールなど、いくつかの国と協業しています。
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文=井関 庸介

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