ビジネス

2022.06.29 07:00

ジェフ・ベゾスが認めたアフリカの送金アプリChipper Cashを生んだ起業家


アフリカの硬直化した銀行システム


チッパーキャッシュのアイデアは、高校生だったセルンジョギが、アフリカの硬直化した銀行システムに苦労を強いられた父親を助けたいと思ったことから始まった。ウガンダでIT事業を行う父親は、セルンジョギと2人の兄弟を私立高校に通わせ、競泳クラブにも通わせた。

2010年に当時16歳だったセルンジョギは、ウガンダのユースオリンピックチーム入りを果たし、南アフリカの強化合宿に参加したが、その費用を送る際に銀行の送金トラブルに直面した父親は、現金入りの封筒を持ってウガンダから南アフリカまで飛行機でやってきたという。

高校卒業後に米アイオワ州のリベラルアーツカレッジ、グリネルに入学した彼は、ガーナ人のモジャレッドと出会い、アフリカ向けの送金アプリを開発する話で意気投合した。その後、フェイスブックでのインターンを経て、サンフランシスコの企業に務めたセルンジョギは、2018年春に、会社を辞めて、モジャレッドと会社を立ち上げた。

2人は約3万ドルの自己資金を元手に2018年7月にアプリのテスト版をローンチし、顧客がウガンダからガーナに無料で資金を送金できるようにした。その年の11月に、500 Startupsから15万ドルを調達するまでの間、彼らは50社以上のVCにピッチを行ったという。

チッパーキャッシュは、競合のアプリに比べて操作が簡単で、無料で送金が行えるのがメリットだ。この分野の老舗のケニアのM-Pesaは、多くの国内送金に1%から2%の手数料を課している。

2019年の半ばまでに、ウガンダやガーナ、ケニア、ルワンダに進出したチッパーキャッシュは、アフリカ最大の市場のナイジェリアにも拡大し、年末までに60万人の顧客を獲得した。さらに、2%から5%の外国為替マークアップ手数料を導入し、最初の収益源とした。

ジェフ・ベゾスの投資会社も出資


2020年秋にビットコインが1万4000ドルから2万ドルに上昇する中で、暗号通貨のトレーディング機能を追加し、その取引手数料を第2の収益源とした。そして、昨年11月に暗号資産取引所のFTXが主導したラウンドで1億5000万ドルを調達した。このラウンドには、SVBキャピタルやリビットキャピタルに加え、ジェフ・ベゾスの投資会社ベゾス・エクスペディションズも参加した。

チッパーキャッシュの取引総額は2021年第1四半期に2億ドルだったが、2022年の第1四半期には16億ドルに拡大した。

しかし、急成長を遂げる同社も様々なライバルとの競争に直面している。セネガルを拠点とするスタートアップWaveも、同様のサービスを提供しており、昨年の調達ラウンドで17億ドルの評価額を獲得した。さらに米国のRemitlyや英国のWise(旧TransferWise)などの大手も、現状ではアフリカでサービスを行っていないが、彼らの参入を阻むものは何もない。

そんな中、セルンジョギはチッパーの急成長を維持し、収益性を高め、アフリカの人々を暮らしを支援することに集中していると話す。「私は、発展途上国の人々の生活を向上させる上で、起業家精神と資本主義が果たす役割を深く信じている」と彼は話した。

翻訳・編集=上田裕資

ForbesBrandVoice

人気記事