経済・社会

2022.03.01 12:30

ウクライナを襲う紛争下の医療崩壊、国際組織が警告

Chris McGrath/Getty Images

歴史を振り返れば、戦争が病気を広める原因になった例は多いことが分かる。第一次世界大戦中には、世界各地でインフルエンザがエピデミック(最初に発生、拡大したコミュニティーを超えて感染症が広がる)の状態になった。

これは、米カンザス州にある陸軍の訓練基地から広まった可能性が高いとされている。インフルエンザで死亡した米兵の数は、戦場で死亡した兵士の数を上回った。

ロシアのウクライナへの軍事侵攻は、新型コロナウイルスのパンデミックが続く中で始まった。両国とも冬のピーク時と比べれば減少しているものの、依然として多くの感染者が確認されている。公衆衛生の専門家らは、戦闘が長期化すれば、人道的危機の発生につながる恐れがあると指摘している。

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世界保健機関(WHO)のテドロス・ゲブレイェス事務局長は先ごろ、ウクライナ向けに医薬機材を送るため、WHOの準備金から350万ドル(約4億円)を拠出することを承認。「医療施設と職員や患者、輸送手段、供給品が標的とされないよう、すべての当事者が最大限の注意を払わなければならない」と述べている。

米ジョンズ・ホプキンス大学のデータによると、ウクライナの2月28日時点の累計感染数は、504万人。1日に確認された新規感染者数が過去最多(約4万5000人)を記録した2月初めと比べれば減少しているが、人口が約4400万人であることを考えれば、相当の人数だ。

また、ウクライナの新型コロナウイルスのワクチン接種率は、35%に満たない。つまり、感染すれば重症化する危険性が高い人が多いということだ。ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生学大学院のポール・シュピーゲル教授は同国の現状について、次のように警告している。

「人々が逃げたり避難したりすることは、感染防止の点では問題が大きい。(防空壕や地下室などの)閉鎖された空間に、集まることになるからだ」

さらに教授は、感染者がさらに増えれば医療がひっ迫し、患者が必要な治療を受けることも難しくなると指摘する。
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編集=木内涼子

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