ピアノの即興演奏で養ってきた力とは──発想力の源を探る

ちまたでは「現代の空海」とも称される風雲児であり、人工知能(AI)による社会課題解決に邁進しつづける石山洸。脳に浮かんだイメージを現実化するために適切な、「趣味」について聞いた。


弊社は「AIを用いた社会課題解決を通じて、幸せな社会を実現する」をミッションに、2017年に2つのベンチャーが合併して誕生しました。現在は、国内最大級のAI/DXプラットフォームの「exaBase」、介護×AIサービス、DX人材を発見・育成するプログラムなど、多岐にわたったサービスを提供しています。

多忙なので、朝5時に起き、0時を超えても仕事をしていますが、「仕事が趣味」というわけではありません(笑)。実際の趣味は料理とピアノの即興演奏です。

お酒のつまみもつくりますが、健康を考えて精進料理をつくることが増えました。鰹節が使えないなど制約が多いなかでおいしさを追求するのは、修行感が非常にあります。1週間精進料理というようなときもあって、「自分は殺生しないで生きている」という意味でのクリエイティブ・コンフィデンスがもてるのもよい面です。

ピアノに関しては、演奏する、作曲する、即興演奏をするという3段階に分かれます。私は中学生で作曲をスタートし、大学生のときには毎日のように即興演奏をしていました。

最初はシステムをとらえて即興していたのですが、キース・ジャレットというジャズピアニストの書いた『インナービューズ』という本に、左手でドとソを弾くと倍音が鳴り、その倍音のなかで聴こえてきた好きな音を右手で弾く、という即興演奏法が書かれていたのです。つまり、即興演奏とは「好きなものを見つける力」であるということを理解した。

それを極限まで突き詰めていくとどうなるか。インプットとアウトプットの距離が限りなくゼロに近づきます。空海に関する伝説に「杖をついたら水が湧いた」というのがありますが、それに近い感じでしょうか。

欲しいと思ったものがその瞬間に現れる。思う世界と、現実化する世界の距離が極限まで縮まる。イーロン・マスクが「人類の火星移住を実現させる」と思い、それまでの間の地球温暖化を食い止めるために「テスラ」を開発するような話で、脳のイメージをいかに実現できるか、その力を養うのにピアノの即興演奏は最適なのです。

弊社にはさまざまなAIの研究プロジェクトが集まります。最近だと茶道や柔道など「道」というものをAIで可視化したいという依頼がありました。そこで5年以上の「道」の経験者の言語をAIで解析すると、「大切にする」という言葉がよく使われることがわかった。剣道なら道着をきれいに着る、茶道なら茶道具の手入れをする、華道なら自然を大切にするなどです。

先日のショパン国際ピアノコンクールで2位入賞した反田恭平さんは「僕は『英雄ポロネーズ』をこんなふうに弾きたいけれど、ワルシャワの人たちにとってはこうだから、彼らにとって失礼ではないように弾いた」とおっしゃっていました。つまり「文化を大切にする」という感覚で弾いていて、ただの超絶技巧ではないわけです。

社長も同じく、“経営の超絶技巧”を極めたとしても、精進料理やピアノのような具体的な趣味を通じ、人や自然を「大切にする」という概念を強化学習していくというのが、実はすごく大切なことではないかと思います。
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構成=堀 香織 写真=yOU(河崎夕子)

この記事は 「Forbes JAPAN No.090 2022年2月号(2021/12/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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