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2015.05.20 08:00

「強気の予想数字」と「予想の粉飾」の違い

wrangler / Bigstock

筆者は、ベンチャー企業への大型投資が増えていることを歓迎するものの、予想数字を過大に挙げる起業家が出ている風潮に警鐘を鳴らしている。

最近、ベンチャー投資市場で大型の資金調達が目立っている。売り上げ数億円規模の会社が10億円以上の調達をすることも珍しくない。そして、それらの会社が挙げる予想数字が非常に強気である。
上場企業の場合、実績値を粉飾すると粉飾決算になるが、予想数字が強気すぎたりしても、投資家に怒られて終わるだけで法に触れるようなことはない。また、本当にその数字を「達成するつもり」のときもあるし、経営者にはそのような気概も必要だ。
ところが近年、ベンチャー企業、とりわけIT系のベンチャー企業を中心に、「予想の粉飾」とも呼ぶべき事態が起きているように思える。
確かに、意欲的な数字を掲げて経営をすることは悪いことではないし、背伸びした予算を挙げてそれを死に物狂いで達成するのもベンチャー企業やベンチャー経営者の醍醐味なので、それは否定しない。投資家側からも見ても、弱気よりも前のめり気味なベンチャー起業家のほうが投資しがいがある。
それに2008~11年は、ベンチャー・ファイナンスや、ベンチャー起業家にとっては受難の時代だった。それがようやく復活しつつあり、大変けっこうだと思っている。ベンチャー投資会社も金融系からIT系、独立系など増えてきているうえ、資金調達も容易になってきた。
特に、SNSやゲーム関連のIT系企業の場合はその性質上、当たると「n乗」で資金が増えていく魅力がある。短期間で売り上げが大きく上がり、投資効率が非常によい。起業家もごく短期間で成功者になれる可能性がある。


「優秀なCFO」の条件?

そのようななか、より強気の予想数字を、根拠を示して語ることができるチームが大きく資金調達できる。
「根拠を示して語る」というのは、ファイナンス的感覚で「エクイティストーリー(業績変化を示しながら語る、売り上げや利益成長についての実現しうる空想上の物語)」を語れることである。
やや自虐的に聞こえるかもしれないが、実際にそんなものだ。経営者の妄想や空想に投資するのが、ベンチャー投資家の仕事であり、それはとても価値がある仕事である。
なかには、足元の数字をしっかり固めて、少ない資金を丁寧に使いながら、地道に商品開発をしているベンチャー経営者もいる。もちろん、それはそれでとても素晴らしいことだ。ただ、成功するまで時間がかかり、投資効率はあまりよくない。
一方で、大風呂敷を広げて「エクイティストーリー」を語ることができる会社や人材は大きな資金調達ができる。そうして集めた資金で広告宣伝費や拡販費を使って大博打を打つと、商品やサービスの善し悪しにかかわらず、短期的な売り上げの改善率は高くなる。
じつは、この短期的な改善率が重要で、それが永続するような期待感とその根拠を示すことによって、さらに次の資金調達へとつなげていくのが上手な人が、「優秀なCFO(最高財務責任者)」として評価されたりする。
予想数字が実現するかどうかはともかく、調達したい資金の額と希薄化したくない株式のギリギリの割合を比較考量できるのも財務マンの腕だ、という意見もある。これはこれで一理あるので、否定はしない。


「予想の粉飾」が招く負の連鎖

しかし、である。「強気の予想数字」と「予想の粉飾」の違いを外部から見極めるのは、決して簡単ではない。
おそらく、そのような状況を利用して、「ちょちょっと、儲けるのがクール」だという気分になり、だんだんと「強気の予想数字」から「予想の粉飾」へと変化していってはいないだろうか。実際、「予想の粉飾」に近いケースをしばしば見かけるようになってきた。
数十億円の規模のファイナンスを「成功」させて、メディアで「赤字を堀りつづけて、時価総額の増大を目指します」とか言っている企業もあるが、それは果たしていかがなものだろう?
雑な経営で、ギャンブル覚悟で大量の宣伝広告費・拡販費を投入し、その変化率でさらなる資金調達をしていくのは割合と簡単だ。
一方で、地道に顧客の声を聞き、商品開発を進めながら節約し、契約上の不備やセキュリティ上の欠陥をただし、社員を雇い、彼らが満足できる職場環境を整える企業をつくることは非常に難しい。


人間的な経営が、会社を堅固に

会社の規模が大きくなると、マネジメントの負荷は倍増するので大変だ。成長が急であれば、崩壊もまた早い。急激に伸びた会社を堅固にするのは、非常に洗練された経営手法が必要だ。でも、それはとても人間的で思いやりのある経営だったりする。
では、そのような技量が伴わない経営である場合はどうなるか? 前線で広告を刺激し、投資家向けKPI(重要業績評価指標)の数字を膨らませていくと、その会社のマネジメント能力の飽和点から組織の崩壊が起き、売り上げに結びつかなくなり、やがては赤字に転落して資金繰りに窮することになる。
投資は自己責任とはいえ、株価は未来志向であるため、会社側の予想数字に左右される。仮に、「予想の粉飾」まがいなことが起きた場合、それはもはや自己責任に留まらず、会社の責任でもある。


健全な資本市場の発展とは

3月上旬、モバイルオンラインゲーム開発企業「gumi」が大幅な下方修正をした。営業利益が13億円の黒字予想から4億円の赤字と大幅な数字の引き下げだ。それも決算発表日の前日の下方修正であり、開示の速報性という点でも問題点が多い。
今回のgumiのケースが必ずしも「予想の粉飾」とは断定できない。それでも、上場したての企業であることを考えると、会社の財務担当者のみならず、主幹事証券会社の責任も免れない事態である。
gumiの件がどうなるかはまだわからないが、今後、未上場企業の「予想の粉飾」的なファイナンスは厳しくなるだろう。これからは、予想数字のn乗の変化率を見ていくのではなく、nは2乗くらいにとどまるのではないか。つまり、調達金額が大幅に下がることになる。
もっとも、そのこと自体はベンチャー投資業界では歓迎されている。というのも、未上場企業の株価があまりに上昇しているため、安く仕込む機会が少なくなっていたからだ。

このコラムでも再三繰り返してきたように、今後10年間は、日本のベンチャー企業が日本を引っ張っていく時代になるのはまちがいない。
だからといって、「予想の粉飾」のようなことをしてまで株価を上昇させていくことは、日本の健全な資本市場の発展にとって決してよいことではない。
過熱したベンチャー企業投資の市場に冷静さと客観性が戻れば、むしろベンチャー市場の持続性は高まるはず。これからは、「予想の粉飾」の少ない健全な市場に戻っていくことを期待している。

藤野英人=文

この記事は 「Forbes JAPAN No.10 2015年5月号(2015/03/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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