「泊まる」から「過ごす」へ、ホテルは人が集うアナログなメディア

渋谷のTRUNK HOTEL(筆者撮影)

いま、ホテルが、「泊まる」場所から「過ごす」場所に進化して人気を集めています。元々、一歩足を踏み入れるだけで、非日常を味わえるのがホテルの魅力ですが、インテリアや設備などで「世界観」を打ち出しやすいという点から、人の集うアナログな「メディア」としての機能を強めているのです。

例えば、現役東大生のホテルプロデューサーとして注目されている龍崎翔子さんが展開するホテルでは、「共用スペース」の充実が人気の秘訣です。

2017年にオープンした「HOTEL SHE, OSAKA」の共用スペースは、プレーヤーでレコードを楽しめるおしゃれな空間になっているだけでなく、宿泊者が自由に使えるキッチンを設けるなど、宿泊者同士で会話が生まれやすい「場づくり」がされています。

そこで、くつろぎ、出会い、会話する……。SNS世代の彼女が手がける、あえてのアナログな時間を楽しめる仕掛けが魅力です。

また、「ライフスタイルホテル」という言葉も、近年、頻繁に聞かれるようになりました。もはや、ホテルは宿泊する場所以上のもの、その場所ならではの「体験」を楽しむ場所、その場所を選んだ自分の「個性」を楽しむ場所なのです。

このホテルの「メディア化」ですが、SNSで日々の行動を発信する機会が増え、食事や打ち合わせなど足を運ぶ場所ひとつひとつに自分らしさを求める風潮が強くなったことが、促進させたのではないかと推測しています。

友人と会う場所も、仕事をする場所も、その人にとっての「舞台」。どこでやるか、自分らしい居心地の良い空間で時間を過ごすことの比重が高まっているのです。

洗練された場で一人の時間を満喫したい人、仕事帰りにワイワイ楽しみたい人など、この「ホテル」という新しいメディアは、読者の趣味嗜好やライフスタイルによって細分化されている「女性誌」に近いように思えます。

渋谷のコミュニティスペースに


最近では、旅行者だけでなく、地元で暮らす人たちのホテル利用も増えており、20代〜30代にとってもフレンドリーな「行きつけのホテル」が生まれているようです。

2017年に東京・渋谷にオープンした「TRUNK HOTEL」は、その好例です。宿泊ももちろん人気だと思いますが、訪れたときに驚いたのは、1階にあるラウンジの活気でした。

渋谷という土地柄か、ノマドワーカーやクリエイターが集うコミュニティスペースとして、打ち合わせや作業を行う人たちでいっぱい。イベントやワークショップの開催が多いというのも納得です。
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文=山田 茜

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