英、テロ捜査でフェイスブックと協議 通信内容の開示要求

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先週、ロンドンで発生したテロ事件の捜査で、イギリス政府はフェイスブックに対し、容疑者が使用したメッセージアプリ「WhatsApp(ワッツアップ)」の通信内容へのアクセスを求めている。

4人を殺害したカリド・マスード容疑者は犯行の約2分前にWhatsAppを起動していたと、デイリーメール紙が報道していた。英国内務大臣のアンバー・ラッドはこの件でグーグルやフェイスブック、ツイッターの担当者と面会し「テロリストらが特定のプラットフォームで連絡を取り合っているのに、そこにアクセスできないというのは実に不条理なことだ。解決策を探っている」とメディアに述べた。

日曜夜のBBCのニュース番組でラッドは「このような状況下では、国家の情報機関がWhatsAppの暗号化メッセージにアクセスする権限を持つことが正当であるべきだ」と述べた。

WhatsAppのアクティブユーザー数は10億人以上にのぼる。同社の担当者は「テロは大変恐ろしいことであり、捜査には協力している」と述べた。しかし、今回の事件はWhatsAppとその親会社のフェイスブックを難しい立場に追いやった。

WhatsAppは昨年からエンドツーエンドの完全な暗号化を実装しており、同社のエンジニアであっても送信済みのメッセージにはアクセスが不能だという。国家機関であってもその内容を見ることは技術的に不可能なのだ。

WhatsApp創業者のジャン・コウムらは完全暗号化を実装した昨年4月に「送信後のメッセージを読めるのは、送った本人と送信先グループの人物に限られる。誰も外部からメッセージを見ることは出来ない。それがサイバー犯罪者であろうと、ハッカーであろうと、政府であっても無理だ。もちろん我々にも不可能なのだ」と述べていた。

ブラジルの裁判所はWhatsAppが暗号化を導入してから一ヶ月後、同社が薬物取引がらみのユーザーデータの提出を拒んだため、3日間に渡りアプリが国内で利用できないようにした。当時、WhatsAppのコウムは「裁判所は我々が持っていないデータを提出するよう要求している」と反論していた

そんな事態を踏まえ、英国政府がWhatsAppにデータの開示を求める背景には何があるのだろうか。一つ考えられるのは世間に向けて「政府は手を打っている」とのポーズを示すためだ。テクノロジー企業に圧力をかけることは、少なくとも何もしないよりはましだ。

一方で政府は、WhatsAppが譲歩し、情報提供に応じることも期待している。実際、WhatsAppは最近になってプライバシーポリシーを変更しているからだ。

昨年8月にWhatsAppはフェイスブックとデータ共有を行うよう過去4年で初めてプライバシー規約を変更し、ユーザーから強い反発を受けた。規約変更により、フェイスブックでのターゲット広告表示にWhatsAppでのユーザー行動履歴が用いられるようになった。

英国の情報機関はこの件を踏まえ、WhatsAppから交渉次第では譲歩が引き出せると考えているのかもしれない。しかし、この考え方にも無理がある。

WhatsAppの創業者らは今回の事件を契機に暗号化を停止し、政府のアクセスを受け入れる道もあるのかもしれない。しかし、それは行き過ぎた譲歩としか思えない。

編集=上田裕資

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