アプリを「部品」として提供、プログラマーに大人気のツイリオの戦略

共同創業者でありCEOのジェフ・ローソン。中学時代にイベントのビデオ撮影と編集を請け負うビジネスを始めたという早熟ぶり。高校時代は週末だけで5000ドルを稼いだこともあったという。


「謙虚であれ。質素であれ」ーこんな控えめな社是を掲げるツイリオは、簡素なビルに本社を構える。受付といえば、窮屈な部屋のデスクに警備員が座っているだけ。社内には洒落た家具もなければ、お抱えのシェフもいない。IT企業に付きものの無料のランチも、週に2度ほど出前で届くだけだ。

ITバブルから痛い教訓を得たローソンは、財務規律を重視している。黒字化が手の届くところまで来ているのは、スタートアップにしては倹約的だからだ。

その倹約精神のおかげで、ツイリオは自分たちの望む条件でIPOを実施できた。同社は銀行口座に1億ドル以上を持っていたため、別に株式を公開する必要はなかったとローソンは言う。

「僕らは胡散臭いスタートアップなんかではないと、知ってもらいたかっただけなのです」
 
15年に1億6700万ドルを売り上げたツイリオの前途には、計り知れないチャンスが広がっている。現状のペースで成長すれば、18年後半にも年商10億ドル規模の企業になるだろう。ローソンによれば、通信サービスは1兆ドル市場だ。しかも、その大半はハードウェアからソフトウェアに移行すると見ている。
 
だが既存の競合企業は、自分たちの縄張りを守ろうと固く誓っている。また“次世代のローソン”を擁する数多くのスタートアップも、ソフトウェア開発者を囲い込みにかかっている。
 
今のところ、新たなライバルたちの中にツイリオほどの規模や機能や信頼性を持つものはない。リスクになるのはむしろ、一握りの大手顧客に依存しすぎることだろう。たとえばワッツアップは、ツイリオの売上高の約13%を占めている。とはいえ、売り上げの伸びに貢献しているのは割と小規模な顧客が多いので、投資家たちは特に心配していないようだ。
 
ツイリオ株の持ち分で5億ドルの資産を持つローソンは、株価が今の2倍になれば億万長者になる。世界がますますモバイル化とクラウド化を進めるなか、2カ月後とは言わずとも、2年後にはそうなっている可能性は大だろう。それでも、ローソンは言う。

「僕たちはスタートを切ったばかりなのです」


ツイリオ(Twilio)◎2008年創業。SMSや電話などの通信機能をウェブやアプリケーションに簡単に埋め込めるAPIを提供する通信サービス。コカ・コーラやネットフリックス、ウォルマートなど3万社を顧客に抱え、世界11カ所に拠点を構える。

文=ミゲル・ヘルフト、翻訳=町田敦夫、写真=ティム・パネル

この記事は 「Forbes JAPAN No.32 2017年3月号(2017/01/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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