ビジネス

2017.02.12 19:00

「ひと手間」というプロセスを価値化、日本食に学ぶブランディング


例えば、山形県の庄内おばこサワラ。一人乗り漁船にて「はえなわ」という漁法で、可能な限り魚にストレスを与えないように丁寧に釣り上げられる(釣り上げる際に魚が暴れたりストレスを感じていると魚肉に含まれるうま味成分が分解されてしまい味が落ちる)。釣り上げた後は、船上で独自の活〆と神経抜きの処理を徹底して行っているため、一般的なサワラよりも長期間高い鮮度を維持でき、刺身としても食べられる品質だという。

一般的に、魚は死後硬直後、徐々に魚肉の中でイノシン酸といううま味成分がつくられる─いわゆる熟成の段階に入っていくのだが、庄内おばこサワラの場合は、高鮮度を保ちながら、じっくりと熟成が進むため、釣り上げた直後よりもさらにうま味が増して、おいしくなる。

漁師たちはお姫様を扱うように大事にサワラを扱うため、庄内弁で若い女性の意味をもつ「おばこ」の名をとり、「庄内おばこサワラ」と名付けられたのだという。それほどまでに、ひと手間どころか、多くの手間をかけることで、サワラのおいしさが保たれ、引き出されており、現在では東京・築地市場においても高く評価され、安定的に高値で取引されている。

「よりおいしい」ものを目指して、手間暇を惜しまない生産者のクラフトマンシップ。生産物にかける惜しみない愛情。そうした「ひと手間」によっておいしさが引き出された日本の食材は、コモディティの域をはるかに超え、アート作品そのものだと感じる。

人口減少期を迎えた日本は、今後ますます海外市場を積極的に開拓していく必要がある。東南アジアの高級スーパーでバイヤーをしている知り合いから、「日本から『〇〇県産の△△』など、産地や珍しい品種名を冠した高級フルーツの商談が持ち込まれるが、正直言って現地の人は知らないし覚えられない。味の違いや系統などがもうちょっと具体的にわかってもらえるものだといいんだけどなぁ……」という話を聞いた。

海外市場を意識したブランドづくりには、諸外国の消費者の心をぐっとつかむ「何か」で勝負しなければならない。

日本の各産地では当たり前に行われている「ひと手間」であっても、日本の外に出れば、面白いストーリーが浮かび上がってくるエピソードの宝庫である。いま、世界は和食ブーム。素材そのものがもつ味わいを引き出している「ひと手間」というプロセスに着目し、それらを価値化する。プロセスの価値化こそ、日本が生き残る道なのかもしれない。

久納寛子◎電通総研Bチーム「農業」担当特任リサーチャー。ビジネス・クリエーション・センター所属。週末に東京近郊の体験農園で農作業を楽しむ「農のある暮らし」を実践中。米国ニューヨーク州弁護士。

久納寛子=文

この記事は 「Forbes JAPAN No.31 2017年2月号(2016/12/24発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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