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2017.01.22 12:00

茶道、華道ならぬ「湯道」が日本の銭湯を救う?[小山薫堂の妄想浪費 vol.18]


鷲田清一(きよかず)さんの書かれた『「待つ」ということ』という本がある。「待つ」という行為や感覚からの認識を臨床哲学の視点から考察した名著だ。現代は待たなくてよい社会、待つことをどちらかというと厭う社会になった。なぜなら、文明の進化は人を待たせないためにあるから。携帯電話がないころは、待ち合わせの時間や場所をきちんと決めて、遅れる場合は駅で放送をかけてもらったり、喫茶店に電話して本人を呼び出したりしていた。いまは遅れるときはメールか電話1本で解決できる。でも、ちょっと味気ないですよね?

こういう時代だからこそ、「待つ」というのはすごく大切で、価値あることだと僕は思う。熟成するからこそ芳醇な香りがあり、待ち遠しいからこそ恋心が募り、厳しい寒さを乗り越えるからこそ春の桜は美しい。実際、ほんの少し前までは、鷲田さんの言葉を借りれば、「待ち焦がれつつ時間潰しをすること、期待しながら不安を抱くこと、そんな背反する想いが『文化』というかたちへ醸成された」のである。

「湯が沸くまでの時間を待つ」ことで、僕たちはあらためて、「飲める水を沸かしてそこに入る」という日本の風呂文化の、贅沢さ、貴重さを実感できるのではないだろうか。

銭湯が訪日観光客の新名所に!?

さて、湯道はお湯室だけが学びの場ではない。自宅のお風呂でもいいし、温泉や街の銭湯でだって学ぶことができる。

銭湯は年に50軒のペースで廃業に追いやられているというが、昨今では銭湯経営者の世代が変わり始め、孫世代が継いで廃業を免れるケースも多くなっているらしい。墨田区錦糸町にある御谷(みこく)湯という銭湯は、婿に来た青年がバンドのボーカルをやりながら、銭湯を経営している。ここは単に古くなった設備をリニューアルしただけでなく、オープニングの日にはペンキ絵ライブペインティング+音楽ライブイベントを開催。また、福祉型介護風呂を併設し、要支援者や障がい者手帳をお持ちの方に家族と貸し切り入浴を楽しんでもらっているそうだ。弊社の女性社員が入浴しに行ったら、湯船で外国人女性と地元のおばあちゃんがコミュニケーションしていたという。当然、おばあちゃんは日本語しか話せず、外国人女性は日本語がわからないのだけど、身振り手振りで見事に通じ合っていたらしい。銭湯の良さは、裸同士、つまりその人のバックボーンがわからないまま、仲良くなれること。特に地元の人にとっては旅人とつながるきっかけにもなるし、何より外からの視点が入ってくることによって日常が新鮮に思えたりする。

そこでいま、全国の潰れてしまった銭湯をリノベーションして甦らせるという企画を考えている。銭湯は普通に営業するとなかなか儲からないので、Airbnbのフロントとして機能させるのだ。そこで旅人に宿泊施設の鍵を渡し、銭湯は大浴場的に使ってもらう。そうすれば、現在のAirbnbのように個人が個人に部屋を貸し出すだけでは生まれない、サロン機能が生まれるに違いない。地域にひとつ、そのような場所があったら活性化して、町おこしにもなると思う。

あとは、国立美術館があるなら、国立銭湯を建てるというのはどうだろう。東京の一等地でも羽田空港でも構わないが、都道府県それぞれの湯船を47つくり、飲食もできるようにし、地方創生と湯道を合体させるのだ。費用は国立新美術館の総工費が350億円というから、200億円くらいだろうか。国内外に新たな日本文化を発信できる名所のひとつになると思いますが、いかがでしょうか。

イラストレーション=サイトウユウスケ

この記事は 「Forbes JAPAN No.30 2017年1月号(2016/11/25発売)」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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